第12話 嘘
驚いたことに、勉強会の提案は受け入れられた。
「梨沙ちゃんがね、明後日――金曜日なら大丈夫だって」
教えてくれたのは、当然西川だ。翌日、俺の席の近くまで西川がやってきてそう言った。
「ありがとう、西川」
「別にいいって~。梨沙ちゃんに友達が増えるのならわたしもうれしいから」
俺たちの話を聞いて、藤咲も側に寄ってきた。同じように西川から了承の旨を聞き、胸をなでおろしていた。
「これで第一関門突破だね」
「うん」
しかし、俺は釈然としなかった。はっきり言って、勉強会は99%断られると思っていたからだ。まさか、あっさり受け入れられるとは思っていなかった。
「ねえねえ、どこで勉強会しようかな」
「……珍しくテンションが上がってるな」
「そりゃそうだよ! 江南さんと勉強会だよ? すごくワクワクする」
もともと江南さんに興味があった藤咲からすると、一緒に勉強できることがすごく喜ばしいのだろう。しかし、俺は憂鬱だった。話したくもない江南さんと同じ場所で勉強なんてしたくないというのが本音だ。
「あ、大楠君、やっぱり嫌そう」
藤咲が若干ふくれている。そこまで嫌じゃないと説明した手前、あんまり不満そうな表情をするべきではなかったな。
「そんなことないよ。俺も、どうしたらいいか考えていたところだった」
俺たちは西川のほうを向いた。
「ちなみに、勉強会について、特にまだ何も決めてないよね。それならこっちで決めちゃうけどそれでいい?」
「え、ああ、うん。いいと思う……」
なぜか歯切れが悪い。
「無難なところでいくと、図書館か、ファミレスかな。ただ、仲良くなるのが目的であれば、会話のしづらい図書館よりもファミレスのほうがいいかもしれない」
「大楠君、さすがだね。私もそう思ってたの」
学校の近くにはいくつもファミレスがある。もし、他の生徒に見られたくないということであれば、駅の反対側まで行くことにすればいい。
「あと、江南さんって部活入ってないよね」
俺の質問に西川が答える。
「そうだよ~。ちなみに、わたしのいるテニス部は、ゆるいからサボり可能」
「俺の部活も同じだ。藤咲は?」
「バド部は金曜お休みだから何も問題ないよ」
それなら、時間は放課後すぐで問題ない。おそらく、帰りのHR終了後に集まって、ファミレスに移動という段取りになるだろう。
「ということでいいか、西川」
「おっけ! 梨沙ちゃんには伝えておくね。ただ……」
西川が目をそらす。
「ファミレスに直接集合ってことでいい? わたしと梨沙ちゃん、部活はないけどちょっと用事があるから、少し遅れると思う。先に始めてて~」
「そう、仕方ないな」
むしろ俺はほっとしていた。ファミレスまでの道すがら、何を話せばいいのか見当もつかない。
「ごめんね。あと、前に言ったこと、くれぐれも忘れないでよ!」
「怒るなっていう?」
「そうそう。もうすでに知ってると思うけど、あの子は人の嫌がることをわざと言うことがあるから気を付けてね。たぶん、まともに向き合ってるとお互いのためにならないからさ」
「江南さんと話す以上、それくらいは覚悟してるから大丈夫だよ」
藤咲もうなずく。
「うん! こっちからお願いしてセッティングしたんだし、大丈夫だよ。それに、西川さんがそこまで心配しなくても、勉強会に参加してくれるってことは、わたしたちにある程度好意を持ってくれてる証拠だと思う。江南さんも、変なことは言わないんじゃないかな」
「え、あ、うん……」
さっきから生返事が混じるのは何故なのだろう。正直、嫌な予感がする。
「ただ、梨沙ちゃんは急に機嫌が悪くなることがあるから、気をつけてね」
そこまで言われて、ピンときた。なるほど、だから曖昧なことしか言わないわけか。
「西川」
目線を上げて、西川の顔を見る。
「おまえ。ほんとは江南さんに俺たちが来ること言ってないんじゃないか?」
「ギクゴクドキ」
「あからさまな反応をするな。当たってほしくない予想が当たったと分かるだろ」
やっぱりそうか。藤咲はまだ自体がつかめていない様子なので、説明する。
「藤咲。要するに、江南さんは西川と2人で勉強会をするものと思い込んでいる。それは、俺たちも含めた4人で勉強会をすると伝えていないからだ」
「え?」
藤咲が西川を見た瞬間、ごめんと西川が謝った。
「いや~だますつもりはなかったんだけどさ、100パー断られるのがわかってたから言えなくて、ついごまかしちゃったんだよね」
「西川の言う通り、江南さんが怒ってひどいこと言いかねないってことだよね。まず勉強会を成立させることが大事ってことか」
また振出しに戻ったということだ。会話をする機会は与えられたわけだが、よほどうまくやらない限りそのまま帰られてしまうかもしれない。
「勉強会の話をしてくれただけ、西川さんには、感謝だよ。ここから先はわたしたちが頑張らないとね」
しかし、江南さんをどうやって引き止めればいいのか見当もつかない。これは面倒なことになりそうだという予感をひしひしと感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます