妖怪記録目録又は報告書

英 万尋

盂蘭盆

 私はそんな事どうでもいいといった。

 熱の勢いも弱まればいいものの、ひつこく残り続ける。辺りの家々の玄関前には瓦が待機しており、夕方に向けて手間を無くそうというものだった。苧殻の入ったビニール袋はいい加減に開いたせいで指の太さの穴が出来ている。


〈あとは書きたいところだけ〉


 今夏、祖父の一室を片付けていたら祝言の目録が出てきた。

 それは何枚もあり、古いものは紙が茶色く染みになっており、明らかに機械で製紙されたものではなく荒い手すきの和紙だった。古いものから中身を確認していくとそこには故 ○○と書かれてはいるが潰れており読めなかった。どんどんと開封し、名前が近代的になった頃、私の名前が出てきた。仲人は祖父となっている。母に聞くと仮祝言だという。何でも、東雲の家には何代かに一人ずつ特徴のある顔の男子が産まれるそうで、その子はその名前のわからない相手と仮祝言をしないといけないそうだ。よく見ると一人一人文字が違うので、違う相手なのだろう事はうかがえた。私の分は祖父の達筆に上から文字が重ねられ読めない。重ねられた文字は辛うじて「封印」と読めたが、本来の文字はどうにも読めなかった。

 私は昔、女の子として育てられていた時期がある。別段体が弱かったわけではないけれど、祖父の意向だったそうだ。母曰く私は大層可愛がられていたし、私もそう記憶している。が、後々に私は祖父の年の離れた弟に似ていると聞いた。優しかった祖父がたまに見せる翳りのある笑顔の理由は察しがついた。私が幼い時から祖父の弟がいないということはそういうことだろう。

 霖露が水を貰いに井戸へやってきた。祖父の部屋から井戸はすぐそこだ。窓から身を乗り出すと、霖露に仮祝言の紙を見せて欲しいとせがまれた。誰も管理をしていないものなので渡そうとすると、一緒に片付けをしていた稿介に遮られた。それから、連れ立ってきていた霖露雨を一瞥し「それで足りないのか」と言った。霖露は笑いながら「欲しいのは一人。でも、どれが本物かわからないの」と言って井戸の汲み上げ機に手を掛けた。

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