妖怪記録目録又は報告書 セルフ二次創作

英 万尋

酒涙雨 さいるいう


 平成30年 七夕 酒涙雨 7月7日 

 夜半・大雨(特別警戒) 最高気温26℃ 最低気温20℃

 

バケツをひっくり返したような雨。ザアザアと音が止むことなく、勢いが少し緩むことはあっても降り続く。携帯電話に警告音が鳴り続ける。低い位置の家は避難所への非難を促される。



 生温い風が辺りを包む夏至。未だ止む気配のない雨は、庭木の葉を休むことなく打ち付けている。庭木だけでなく、手入れの滞った雨戸の割れ目から不規則な音を奏でている。

偲「前にさ、稿介が言っていた話。あったじゃない?」

稿介「唐突だな、いつの話だ?」

偲「先々週うちの家に泊まりに来た時」

稿介「……覚えてない」

偲「あのとき稿介…」

稿介「煩い」

偲「私に…」

稿介「やめろ」

偲「だって…」

稿介「蒸し返すな」

偲「そんなこと言ったって…」

稿介「俺は、何にも、覚えて、ない」

偲「……狡い」

稿介「お前の方が狡いだろ」

双方「…………」


偲「あのときは霖露かと思ってて」

稿介「お前霖露を寝床にいれてるのか?」

偲「勝手に鳩尾のところに収まってるんだよ。私のせいじゃない。それに、顔が近くても口には当たらないよ!」

稿介「お前が酔って眠ってさえなけりゃ俺だって……」

偲「何、しなかったって?」

稿介「……」

稿介「俺は覗いてただけで、お前が勝手に引き寄せたんだろ」

偲「寝ぼけてたんだから、故意じゃないよ。事故だよ」

稿介「……もうこの話は終わり。で、お前が寝る前何の話してたんだっけ?」

偲「違うよ。……寝た後で、稿介が寝言言ってたから……」

稿介「あー、いい。聞かなかった事にしろ」

偲「待ってよ。何でそんなに拒むの。そんなに私が嫌なの?」

稿介「お前が嫌じゃないのか?俺に好かれても何の特にもならないだろ」

偲「私だって好きだ」

稿介「……お前、本当に莫迦だな」

偲「稿介だってそうでしょう?何でそうやって突き放すのさ」

稿介「お前と俺の好きは対等じゃない」

偲「対等って何?同じ気持ちじゃなければ好きでいちゃいけないの?」

稿介「俺とお前が同じ好きな訳がないだろう?」

偲「何で決めつけるの?」

稿介「……お前の初恋……いつだよ」

偲「……」

稿介「俺はお前に会ったときからずっとお前だけだ」

偲「どうして」

稿介「言ったよ……言った」

稿介「言ったけど取り合ってなかったじゃないか。何度繰り返しても、お前は無神経に好きなやつの話をしに来て、打ちのめされてる俺を慮れよ」

偲「何で稿介の所に行くのか解らなかったの?本当に?」

稿介「お前が友達いないからだろ」

偲「昔みたいに俺がいるって言って欲しかったって言ったら?」

稿介「……都合が良い人間なんてこりごりだ。俺はあと何度お前の世話を焼かないといけない?」

偲「じゃあ離れれば良いじゃない」

稿介「それが出来なかったから!……出来てたら、こんなに悩まずに済んでたよ」

偲「私は稿介が好きだよ」

稿介「やめろ」

偲「稿介」

稿介「お願いだ」

偲「稿介」

稿介「悪い夢を見てるみたいだ。俺はいつになったら目が覚める?」

偲「私の気持ちが悪い夢?冗談じゃない!稿介、今、夢だって言ったな?」

稿介「ああ!そうだよ!これが夢じゃないなら何だよ!」

偲「夢なら抵抗しないな?」

稿介「……お前、何する気だ」

偲「心して聞け、今からお前を抱く」

稿介「…………は?……はぁ!?」

偲「よかったね、うちの家で。着替えもあるし、相変わらず母さんは出掛けてる」

稿介「待て、何でそうなる?どうして」

偲「どうして?それはさっきの稿介と一緒だよ」

稿介「何だよ、それ」

偲「答えなんて決まってる。って決め付けたじゃない」



稿介「お前しょうきか?」

偲「正気だよ。……どうしたの?声が裏返ってるけど、怖いの?」

稿介「怖い。でも、これもどうせ前みたいに誰かが来てパーになるだろ?」

偲「忘れた?私昨日言ったの。霖露も誰も、ここには来ないよ」

稿介「偲」

偲「ここはね、今、雨の檻の中だよ」

稿介「偲」

偲「なに、そんな顔で拒んでるつもりなの?」

稿介「偲、離せ……」

偲「そうやって、いつも私から離れるように言うよね」

稿介「お前どうかしてる」

偲「どうかしてるのは稿介の方じゃないの?好きな人が自分じゃない他の誰かが好きで、それを相談に来て。正気でいるなんてどうかしてるよ」

稿介「……お前が……それを……言うのか」

 徐々に過呼吸のような浅い息になり、稿介自身でコントロールすることができない。

偲「……息、浅いよ。呼吸」

 

稿介「……」

偲「深呼吸、出来ないなら口、塞ごうか?」

稿介「……」

偲「本当に嫌なら突飛ばせばいいから、今だけは何もしないから少し動かないで」

 そう言うと偲は稿介を抱き寄せた。今まで話していたことなど何もなかったように。

偲「どう、落ち着いた?」

稿介「誰のせいだと思ってるんだ」

偲「私のせい。私のことでこんなに心を砕いてくれてる稿介が好きだよ」

稿介「……お前、本当に偲か?」

偲「信じない?」

稿介「信じたくない。俺に、都合が良すぎる」

偲「ほら、現実だよ」

 ふいに唇同士が付き、鼻からかかる息が頬なぜる。

稿介「……」

偲「まだ現実味ない?……抵抗しても脱がせるからね」

 稿介のシャツの釦に手をかける。もたついているのではなく、できる限りゆっくりと動作を行っている。

稿介「偲」

偲「……」

 唇から離れ、今度は首筋を這う。何とも言えない鳥肌が全身を襲う。加えて、背中側から手を潜り込ませて指が背骨をなぞっていく。

稿介「偲」

 言葉を紡ごうとするものの、背中に意識が支配されてしまう。

偲「……気持ち悪い?」

 動きを止める。

稿介「偲……応えられない」

偲「どうして?」


稿介「お前、女が好きだろ?俺、やっぱり無理って、言われるの、嫌だ」

偲「それは問題ないよ。私、稿介でこんなに早くなってるから」

 そう言うと稿介の手を自らの首筋にあてがった。手の平から伝わる脈動は確かに速い。

稿介「何で俺でそんなに脈が速くなるんだよ」

偲「好きだからだよ」

稿介「……っ」

偲「ちゃんと見て、ほら、私は稿介が好きだよ」

稿介「もう、わかった。少し黙れ」

偲「そう?諦めたの?」

稿介「開き直ることにした」

偲「そう」

稿介「お前、これから結婚できなくなるけど良いんだな?」

偲「稿介が添い遂げてくれるんなら大したことじゃないよ」

稿介「……俺、お前が好きだ。初めて会った時から。」

偲「どう、すっきりした?」

稿介「あんまりすっきりしたもんだから、今なら何でも出来そうな気さえする」

偲「じゃあ何でもしよう。今やりたいこと、あるでしょう?」

稿介「……ヘッタクソなお膳立てご苦労なこったな」

偲「所でさ」

稿介「何だよ」

偲「抱かれるのに違和感ないの?」 

稿介「今までずっと墓まで持ってく予定だったんだ。お前とこれからもいられるなら大した問題じゃない」

偲「本当に私のこと好きだよね」

稿介「今まで通りにいられると思うなよ」

偲「どういうこと?」

稿介「先ず、今まで以上にお前の側に居る」

偲「それで?」

稿介「お前と俺の親にこの事を伝える」

偲「あら、大胆。それから?」

稿介「この家に住む」

偲「……昔から住んでるみたいだったじゃない」

稿介「そういやそうだな……俺、昔っからお前に嫁いでたんだな」

偲「台所も私の洋服箪笥も稿介のが知ってるもんね」

稿介「流れるように脱がしていくな」

偲「脱がないと出来ないことしよう」

稿介「……風呂、沸かすか?」

偲「一緒に入るなら」

稿介「ケツなんて揉んで楽しいか?」

偲「多分稿介が私の揉んでみたらわかるんじゃない?」

稿介「揉めってか?」

偲「嫌じゃないよ」

稿介「俺だって嫌だとは思ってねーよ……尾骨ばっかりなぞんな」

偲「先にお風呂用意してて、後から行くから」

偲「ごめん、お待たせ」

稿介「着替えか?用意してるぞ」

偲「布団敷き直したのと、潤滑剤用意してきた」

稿介「お前、まじで抜からねぇな」

偲「スキンもあるよ」

稿介「お前の口からその単語出るとは思ってなかった」

偲「そう?男だもん。普通でしょう。それとも怖じ気づいた?」

稿介「莫迦いえ」

偲「いつぶりだっけ」

稿介「……中学終わり前くらいか?……肩まで浸かれ」

偲「思春期で私とお風呂入れなかった?」

稿介「いや、……いや違う。俺の家が狭いから入れなかっただけだ。出先で銭湯も温泉も入っただろ。海だって」

偲「じゃあ今は何で?」

稿介「でかいからだよ、お前ん家の風呂」

偲「のぼせそう」

稿介「夏にしては寒いんだ、大人しく入っとけよ」

偲「稿介も泡落として入りなよ」

稿介「……ん」


稿介「何で抱いてるんだお前」

偲「ん~?言ったじゃない、抱くって」

稿介「そういう意味か、からかってたんだな」

偲「違う違う。それも含めてるだけで、出たら夜通し起きてよう」

稿介「出る」

偲「いいの?稿介温まらなくて」

稿介「俺は……大丈夫だ」

偲「私だって稿介心配だけど」

稿介「大丈夫」

偲「行こうか」

稿介「お前は頭洗ってから出てこい」

偲「えー」

稿介「ちゃんとしないなら、今日じゃなくてもいい」

偲「言うと思った。先に出てて、ちゃんとしたいから」

稿介「偉いな、髪まで乾かして」

偲「そうしないと怒るでしょう?」

稿介「いや、乾かしてた」

偲「惜しいことしたな、明日頼むよ」

稿介「今日だけだ。甘えんな」

偲「じゃあ、明日は私が乾かしてあげるよ」

稿介「楽しみにしとく」

偲「稿介、口開けて?……良い子だね」

稿介「……まだ足りない」




偲「稿介、朝だよ」

稿介「……体がバキバキだ、」

偲「起きれそう?ご飯」

稿介「少し待ってろ、もう暫くしたら作る。飯は昨日の内に仕掛けて」

偲「用意できてるけど、食べられそう?」

稿介「雹が降るんじゃないか?」

偲「曇ってるけど雨は止んでるよ。立てないようならこっちに運ぶけど?」

稿介「お前、俺より早く起きれたんだな」

偲「稿介、いつもよりずっと起きるのが遅いよ?時計見なよ」

稿介「昼前……か。まぁ、こんな日があっても良いか」

偲「とりあえず枕元にお茶置いておいたから飲んで待ってて。持ってくるから。あと、期待はしないでね」

稿介「はいはい。こぼすなよ」

朝起きて、本当に昨日の事が現実なんだと体の軋み具合で理解できた。茶を嬉しそうに持ってきた偲は何ともないようだ。あいつの方がへばると思っていたのに。

昨日の夜は恥ずかしい事だらけだ。身体中触られて、触って。舐めたり扱いたり吸い付いたりをお互いにして、それから……

偲「お茶温かった?」

稿介「いや、別に」

偲「そう?気に入らなければ取り替えるけど?」

稿介「いい、これで」

偲「じゃあ、ここに置いておくから食べてね、私向こうの部屋掃除してくる」

稿介「ありがとう。掃除は上からだぞ」

偲「分かった」

そう言うと隣の部屋へ行ってしまった。

昨日の続きのように胸が痛い。


心臓の辺りのシャツを無造作に掴むと昨日とは手触りが違った。偲が新しく出して、着せてくれたのだろう。そして、又昨日の事を思い出す。

何度も繰り返す口付けに一区切り付け、偲は俺を寝床に倒す。それから潤滑剤を好き放題な場所にかけてから、スキンをくわえて片手で封を切った。

出したスキンは俺に付け、もう1つ同じように封を切って自分に付けた。その間空いている手で、足の付け根を親指で撫でられる。後ろから前へと何度も。下から眺める封を切る偲の顔も、撫でられ続けて芽生えたこの感触も、俺はどうにも堪らなかった。足を閉じようとしたが、間に偲がいてかなわなかった。

どうしようにもないほどの羞恥が込み上げてきて、顔を逸らした時、偲が新しいスキンを指に付けているのが見えた。その辺りで俺は手で目を隠していた。ゆっくりと腸を掻き分けながら入って来る感覚に腹の力が入る。内股にも力が入り、足の位置が徐々に胴に近付いてゆく。息の仕方を忘れそうになった。

指一本が苦でなくなった辺りで二本に増やされた。どうやっても異物感はする。その間もう一方の手は寝転ぶ俺の体を撫で回し続ける。たまに腰が跳ねるが、偲は気にしていないようだった。異物感が消え、又指が増える。出来る限り力を抜こうとするが、どうしても入る。そこは出る所で入る所じゃない。

視界を遮断していると、弄くり回してくる手に意識が向く。


「ねぇ、おいしかった?」

「……!?何が?」

「?何がって、そのお味噌汁と卵焼き。しょっぱかった?」

「……少し……塩辛い」

「次からは気を付けるね。温め直す?」

「いい。これで」

「ふーん、珍しい」


顔を上げられない。逃げ出したい

偲とはもう友人ではない。昨日宣言したし、あいつも了承した。俺はあいつの伴侶になった。今やっている掃除なんかは日常茶飯事で、いつも見る光景なのに何か込み上げてくる。

指が抜かれた後は声を押さえるのに必死だった。偲の肩に足が乗って動けず、スキンを替える以外離してくれなかった。

何度も口の中を蹂躙され、胸の突起も尾骨の辺りも撫でられ続け身を捩れさせる。あの夜何度行っただろう。漏れる声も絶え絶えになる息も雨の音に掻き消される事無く、今も鮮明に耳元で聞こえる。悪寒のように背筋が粟立つ。

食事を終え、箸を置くと奥から偲が出てきた。食器を回収すると戻っていった。


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