§3 水本君を知りたまえ、伊月君、

-20-「誘惑」

あれから、木島も水本もすっかり滅入り、不眠症になっていた。


だが、2人ともバーにいる間は落ち着くようで、最近はここに寝泊まりをしていた。



おかげで、今はまぁまぁ元気になり、本日は2人とも家に帰ることになった。



木島

「いやぁ、忘れるとは素晴らしい機能だ。記憶にはあるが、細かいことがぼやけててそんなに怖くなくなったぞ。」



水本

「僕はまだ怖いです……。」



伊月

「帰ってよく寝ろ。家族といるだけでも違うだろ。」



木島

「まー、そうだな!


じゃ、お先。伊月君、今度は案件を選びたまえよ。もうちょっとのほほんとしたのがいい。」



勝手な要望を出し、木島は帰っていった。



伊月

「水本も帰んな。」



水本

「え、え、えっと。」



水本は俺の服の袖を掴む。


ちらちらと俺の目を見ている。何度も、何度も。


「分かってるよな?分かってるよな?」と何回も確認しているかのようだ。



水本

「じゃあ、よろしくお願いします……。」



ついに本音が漏れた。手筈通りにやれってか。


あぁ、なんでだよ。そこまで面倒見るほどの関係じゃねぇだろ。



水本がバーを出て、俺はとりあえず麦茶を注ぎ、一気に飲んだ。


マジで?


イヤだなぁ。なに見せられるんだろ。



頭を抱えていると、ドアがノックされた。


んだよ、萎えてる時に。もう新しい案件か?



ドアを開けた。



目の前に、石ころが浮いていた。



石ころはふわりと地面に落ち、それっきり動かなくなった。



扉の前に続く階段を見上げる。



水本が、覗き込んでいた。



あぁ。俺に反論の余地はないってか。


お前、結構強引な奴だな。

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