Another fairy tale
睦月 琳
もうひとつの「雪の女王」
昔むかし、あるところに、カイという少年とゲルダという少女がいました。
二人はとても仲良しだでした。
しかしある日、悪魔の作った鏡の欠片がカイの眼と心臓に刺さり、優しかった彼の性格は一変して、冷たい氷のようになってしまいました。
その後のある雪の日、カイがひとりでソリ遊びをしていたところ、どこからか雪の女王が現れました。
そして、魅入るようにして彼をその場から連れ去ってしまったのです。
❀ ❀ ❀
雪で覆われた世界の中、そこは雪の女王と呼ばれる女性の宮殿がありました。
彼女は雪の女王と呼ばれる通り、暖かい世界とは正反対である、この雪で覆われた世界でしか暮らせませんでした。
彼女は自身が雪と氷で作った鏡と魔法を用いて、様々な世界を映してはそれを見ることを日々の楽しみにしていました。
そんなある日のこと、とある悪魔が自分にもそんな鏡が欲しいと、雪の女王の元を尋ねてきました。
雪の女王は滅多に来ない来客の頼みもあり、その悪魔と一緒に望む鏡を作りました。
出来上がった鏡を喜ぶ悪魔でしたが、持って帰る途中うっかりとその鏡を落としてしまったのです。
悪魔は慌てて鏡を拾いましたが、一部分だけ欠けてしまっていたのです。
それを知った雪の女王は、自身の鏡を使って悪魔の鏡の欠片を探しました。
そして、とある少年の目と心臓にその欠片を見つけたのです。
その少年は鏡の欠片の影響で、こころが凍てつき、閉ざしているようでした。
自分も一緒に作った鏡が原因であることもあり、雪の女王は少年を傷つけずに、目と心臓から鏡の欠片を取り出す方法を考えます。
すると雪の女王の鏡には少年だけでなく、もう一人同い年くらいの少女の姿を映します。
それを見た雪の女王はある計画を思いつきました。
人は試練を乗り越えた先や、こころからの想いには強い力があるからです。
ある雪の日、雪の女王は雪で作った鳩を飛ばした後、その少年がひとりでソリ遊びをしていたところに現れます。
そして少年を自身の宮殿に連れていったのです。
❀ ❀ ❀
春になると、カイを探しに出かけるゲルダの姿がありました。
太陽や花、動物の声に耳を傾け、少女は旅を続けます。
途中、危ない目にもあいましたが、山賊の娘に助けられました。
そして山賊の娘が可愛がっていた雪の様に白い鳩に、カイは北の方に行ったと教えられます。
そうして、ゲルダはとうとう雪の女王の宮殿にたどり着きました。
そしてここからは知っての通りのお話です。
雪の女王の宮殿でカイを見つけたゲルダは、こころから涙を流して喜ます。
そしてその涙こそがカイの目と心臓に突き刺さっていた、雪と氷で出来た鏡の欠片を溶かしたのです。
少年カイは元の優しさを取り戻し、二人は手を取り合って故郷に帰りました。
❀ ❀ ❀
それからその少年と少女なのですが、冬以外の季節に時々、今まで鏡越しでしか見ることの出来なかった珍しい季節の物を持って、雪の女王の宮殿に足を運んだとか。
心優しい少年はこころを閉ざしている間、雪の女王の傍で、一人きりの彼女の姿を見ていたからかもしれません。
そうそう、お騒がせな鏡を落とした悪魔なのですが、あの後二人にちゃんと誤ったそうですよ。
ところで、どうして冬以外の季節なのかって?
それはもちろん、冬の季節なら雪の女王自ら遊びに来れますからね。
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