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私は……
今まで夢の世界にいた。
現実の世界に引き戻された私。
これがリアルな私……。
◇
「錦織さん、まだ検品してないの? 早くしてよ。これが各支店の発注書と納品書。急いで商品を梱包して発送すること」
私の勤務先は商品部。職場は窓のない地下倉庫。
地下倉庫は常に蛍光灯が点いているが、地下駐車場と直結しているため、商品の搬入検品も大切な仕事のひとつ。
注文書を元に作成された納品書と共に、数百種類はある商品から、注文された商品を梱包し各店に配送する。
地下倉庫で働く者の制服はグレーの作業着。当然スカートではない。
「錦織さん! beautiful cherryの商品間違えてるわよ。シャンプーの種類が違ってるって苦情が入ってるわ! 何度間違えたら気がすむの?」
「すみません。すぐに発送し直します!」
どこに行っても、私はドジばかり。
自己嫌悪に陥る。
◇
商品部に来て半年以上が経過。もうすぐ三月も終わる。
「一体いつまでいるの? そろそろ自覚してもいいんじゃない?」
毎日毎日同じ課の女子社員には嫌味を言われ、部長からも退職をほのめかされる。
これってパワハラだよね。
でも負けない。
自分から逃げたりしない。
私には……
夢の世界で得た素敵な想い出があるから。
◇
三月最後の月曜日。部長に呼ばれ地下倉庫から上階の商品部に行く。
「錦織さん、辞令が出たわ」
商品部地下倉庫からさらに左遷って、私は何処に飛ばされるんだろう?
皆目検討もつかないよ。
「あの……私は何処に……」
「異動先の上司があなたに逢いたいと、屋上にみえてるそうよ」
「異動先の上司がわざわざですか?」
「直々に面接かしらね。この辞令はあとで渡すわ。これでやっとあなたから解放される。精々するわ。引き継ぎは無用。送別会の日時は後日連絡します。制服はクリーニングして返却して下さいね。お疲れ様でした」
「……短い間でしたが、お世話になりました。失礼します」
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