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「綺麗な部屋ですね。独身寮より居心地はよさそうだ」


「独身寮は居心地悪いですか?」


「今から入寮するんだよね。色んな部署の人間がいるし、人数も多い。規則もあるし人間関係は多少複雑かな」


「そうですか……」


 でも……お金ないし。


 都内でマンションを借りるなんて、永遠に無理だ。


「商品部は女性の多い職場で、男性社員は少なくて、本部の連中からは『大奥』と呼ばれている。男性社員には『ハーレム』だと思われているけど、女性社員には厳しい職場みたいだから、頑張って下さいね」


 うわ、嫌な予感……。

 選択を誤ったかも。


「はい、私、協調性も順応性もあるし。仕事は出来ないけど、打たれ強い性格だから大丈夫です」


 本当は真逆。

 打たれ弱い性格だ。


「錦織さんは楽しい人だね。同じ名前だし、これも何かの縁。困ったことがあれば何でも言って下さい。商品部の女子社員は俺の言うことは、何でも聞いてくれるから。錦織さんに優しくするように電話しておきますね」


 にっこり微笑む、錦折塁。

 白い歯がキラリと零れ落ちる。


 この笑顔を向けられたら、どんなに意地悪なお局様も『はい』って言っちゃうよ。


 錦折は『大奥』のお殿様だったのかな?お殿様の代わりに、男か女かわからないような私が配属されても、大奥の住人は喜ばないどころか、『優しくするように』と電話をされたら、嫉妬から敵意を剥き出しにするだろう。


 考えただけでも恐ろしい。

 前途多難だな。


「錦織さんはいつ商品部に?」


「午後から出社することになっています」


「そう、時々逢って食事しませんか?」


「えっ? 私とですか?」


「はい。錦織さんみたいなタイプ、好きなんです」


「えーっ?」


 初対面ですぐにアプローチ。

 さすがお殿様だ。


「類、何してるの。開店準備に行くよ」


「はい!」


「はい。俺も行きます」


 類と塁。

 同じ職場に、同じ名前は二人いらない。


 私は困り顔の諸星に視線を向けた。

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