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 ロッカーの扉を開け、制服を取り出す。


 私専用の脱衣スペース。カーテンを開け中で着替える。


 携帯電話の小さなアラーム音が鳴り、ゴソゴソと人が起きる気配がした。


 シャーッて目の前のカーテンが開いた。制服のブラウスのボタンは全開だ。


「きゃあー!」


「うわわっ! お前来てたのかよ! 黙って入るな!」


 私の着替えを覗き見たくせに、逆ギレしてる。


 慌ててカーテンを閉めようとしたら、突っ張りポールがカーテンごと落下した。


「……まったく、人が作ってやったのに壊すなよ」


 外壁にへばりつくヤモリみたいに、私はロッカールームの内壁にへばりつく。


 香坂か苦笑いしながら、突っ張りポールを取り付けてくれた。


「……ありがとうございます。あの……蓮さん、ゆきさんのところに泊まらなかったんですね」


 カーテンの外でロッカーを開ける音がし、香坂が洋服を着替えている。


「どうして俺がゆきのところに泊まらなきゃいけないんだよ。ゆきは再婚するんだ」


「ゆきさん……本当は再婚迷ってるんですよ」


「迷う必要ないだろ」


「蓮さんの鈍感! ゆきさんの気持ちがわからないの! ゆきさんは蓮さんが……」


 思わずカーテンから飛び出すと、上半身裸の香坂。逞しい胸板が目の前にあり、私は目のやり場に困る。


「鈍感はどっちだよ。ほら、さっさと掃除しろ」


 鈍感はどっち?


 どういう意味?


 話をはぐらかされた?


 ゆきさん……再婚するのかな?


 香坂に想いを残したまま、再婚して本当に幸せになれるのかな。


 掃除機とモップを掴み、ロッカールームを出る私。


 モヤモヤする気持ちが晴れない。

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