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 どうして……

 ゆきさんが私と三上のことを……。


 玄関でガチャンと大きな音が鳴る。足音がし鳴海店長と香坂がダイニングルームに入って来た。


「類、まだ起きていたのか? ……お客様?」


 鳴海店長はリビングのソファーに座っていたゆきさんに気付く。


 キッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した香坂が、リビングに視線を向けた。


「……ゆき」


「蓮さんお帰りなさい。突然お邪魔して申し訳ありません」


「どうしてここにいるんだ。ここはシェアハウスだ。ここに来られては……」


「迷惑だよね。わかっています。でも蓮さんに大切な相談があって……」


「俺に相談?」


 鳴海店長が香坂に視線を向ける。


「リビングを使っていいよ。俺はもう休むから」


「すみません。すぐに帰らせますから」


 私はソファーから立ち上がり、浴室に向かう。香坂はすれ違いざま、一言だけ発した。


「よけいなことを」


 よけいなこと……?


 香坂にしてみれば、そうかもしれない。


 でもゆきさんの表情は真剣で、きっと香坂に結婚を止めて欲しいんだ。


「ゆき、送るよ」


「蓮さん……。私ね、プロポーズされたの」


「プロポーズ?」


「迷ってるの。どうしたらいい?」


「俺に相談されても、答えられない。再婚するかどうかはゆき自身が決めることだ。俺に相談する必要はない」


 冷たいな。


 ゆきさんの気持ち、わかってるくせに。


 自分だって本当は……。


「蓮さん、それがあなたの本心なのね」


 ゆきさんの澄んだ声が涙声に変わる。


「マンションまで送るよ」

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