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コンビニの外は突然の雨。傘がない私は雨空を見上げる。私の隣で黒い傘を広げた北麹が、スッと傘を差し出した。
「確か君達のシェアハウスはこの近くなんだよね? そこまで送るよ」
「いえ、北麹様にそのようなことをしていただいては……」
「今夜はもう仕事も終わったし、遠慮しないで」
「……はい」
「君達は同じ家に住んでいるんだよね。今流行りのシェアハウス、男ばかりの中に女性が一人きりで、どんな暮らしをしているのか興味あるな」
「プライバシー重視ですから、アパートと同じですよ」
「そうかな? 肩が濡れるよ、もっとこちらへ」
北麹は私の肩に手を回し、ガッチリと掴んだ。
雨は激しさを増し、私の肩を掴む北麹の手に力が入る。
気まずい雰囲気のまま、私達はシェアハウスに到着した。照明のついていない家を北麹は無言で見上げた。
「北麹様、送って下さりありがとうございました」
「今夜は君一人?」
「はい、皆さんまだ清掃中です。もう少し遅くなると思います」
「高級ブランドのスーツが濡れてしまった。タオルを貸してくれないか?」
「はい。気がつかなくてすみません」
私は玄関の鍵を開け室内に入る。脱衣所に入り白いタオルを手に取った。北麹の目つきに妙な胸騒ぎがし、ズボンのポケットに入れていた携帯電話を取り出し、念のために録音機能のボタンを押してポケットに収めた。
背後に人の気配を感じ、思わず振り返る。
そこには……
無断で室内に上がり込んだ北麹の姿があった。
北麹は不敵な笑みを浮かべ私を見つめた。陰湿で厭らしい男の顔だ。
「……北麹様」
「女だと思うと、妙にそそるな。公式サイトを見たよ。スタッフ同士で色恋沙汰はマズイだろ。しかも相手はあの三上波瑠だとはな」
「あれは……私が躓いて……」
「そんな子供騙しの嘘が通用すると思っているのか?」
北麹は背後から私の口を左手で塞ぎ、右手で手首を掴んだ。
「君の部屋に案内しろ。ここはプライバシー重視なんだろう」
いつもの北麹とは異なり、狂気に満ちた眼差しに足が竦んだ。
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