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小島をあとに回したとしても、次のお客様が来店されれば同じことだ。
鳴海店長は西野に近付き、穏やかな口調で話し掛けた。
「西野様申し訳ございません。こちらの手違いでご迷惑をお掛け致します。暫くお待ちいただけますか?」
「わたくし時間がないの。子供のお迎えもあるし、あちらの方が先にしてもいいと仰られているのよ。先にして下さらないかしら」
「申し訳ございませんが、それは出来ません」
鳴海店長はキッパリと言い切る。西野は機嫌をそこね立ち上がった。
――と、その時……
店のドアが開いた。
男性のシルエットが鏡に映し出される。
「……波瑠さん」
「こんにちは。お久しぶりですね」
髪色は以前より少し明るく、爽やかな笑顔は健在だ。
「波瑠、どうした」
「鳴海店長お久しぶりです。小島様もし宜しければ俺がカットしますよ」
「はい、波瑠さんにして貰えるなんて、嬉しいです」
小島は三上に逢えた喜びからか、涙目になっている。
私達は三上の来店に、驚きを隠せない。
「波瑠、どういうことだ」
「鳴海店長、説明はあとにしましょう。鳴海店長、西野様がお待ちです」
スタッフ全員、狐に摘ままれたように顔を見合わせた。
三上は平然と小島のヘアカットを始めた。制服を着ていないため違和感はあるが、二ヶ月前と変わらない三上に、小島は満足そうに微笑んでいる。
不機嫌だった西野も、鳴海店長に手を差し出され、帰宅を踏みとどまった。
私は……
夢を見ているみたいだった。
ずっと……
逢いたかった三上が目の前にいる。
ドキドキと鼓動は加速し、視線は落ち着かない。
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