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「類ごめん。気を悪くしたよね」
「いえ……」
「その花束、捨てていいよ。グランプリ逃したなんて知らなかったから。でも準グランプリくらいは獲れたんだろう」
「準グランプリどころか、特別賞すら獲れませんでした。全部私のせいなんです……。私がランウェイで転倒し醜態を曝したから……」
「そうか」
「でも、お花に罪はありません。花瓶に活けますね。波瑠さん、花瓶ありますか?」
「キッチンの棚の上だよ」
私は花束を抱えたまま、キッチンに向かう。キッチンの扉を開けながら探すものの花瓶の所在がわからない。
三上が椅子から立ち上がり、キッチンに来た。棚の奥をゴソゴソと探り、クリスタルの花瓶を取り出す。
「はい」
「ありがとうございます」
三上と視線が重なる。
三上は私を真っ直ぐ見つめた。
「……波瑠さん?」
三上が私を両手で抱き締めた。
花束が口元で揺れる。
「波瑠さん……酔ってるの?」
「ちょっとだけ、酔ってるよ」
「また忘れてしまうのですか……」
「そうかも」
三上の唇が……
私の唇に触れた。
「……波瑠さん」
「ニューヨークに行くかどうか、本当は迷ったんだ」
「どうして……私にキスを……」
「どうしてかな。類を見ていると抱き締めて、キスをしたくなる。俺……類のことが……好きみたい」
「……うそ」
「類が引き留めてくれるなら……。類が抱かせてくれるなら、俺は行かないよ」
三上がこんな乱暴な言い方をするのは初めてだった。
みんなを怒らせ……私を挑発し……。
beautiful magicへの思いを断ち切ろうとしている。
優しい性格なのにわざと悪ぶって、嫌われようとしているんだね。
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