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「取り敢えず、準備はここまで。あとは本番だな。一発勝負だから、そのつもりで」


「わかってます」


「後片付けして帰るぞ」


「はい。シャンプー台は私が洗います」


「よろしく」


 髪色が明るくなっただけで、気分まで明るくなる。もう午後十一時を回っているのに、不思議と疲れを感じない。


 香坂のマッサージのお陰かな。肩凝りもとれ、体まで軽くなった。


 片付けを済ませ、私達は同時にロッカールームに入る。深夜、二人きり。魔法が解けたみたいに、羞恥心に襲われる。


 香坂の付けてくれたカーテン。カーテンの中で蓑虫みたいにモゾモゾと着替える私。


「あの……香坂さん。このカーテンありがとうございました」


「別にお前のためにつけたわけじゃない。男専用ロッカーで女の生着替えを見せられたら、スタッフの注意力が散漫し、仕事に支障をきたすと思っただけだ」


 なるほど……。


 優しいと思った私がバカでした。


「すみません」


 意味不明に謝る私。

 なんで謝る必要があるのかわからない。


 着替えを済ませた私達は、店を出てシェアハウスに向かう。


「類、ちょっと付き合え」


「えっ……えっ……?」


 香坂は私の手をむんずと掴んだ。


 シェアハウスとは反対方向。駅裏の狭い路地をどんどん進む。


「待って下さい。一体何処に……」


 香坂の向かった先は赤い暖簾の掛かった小さな小料理屋だった。


「あら蓮さんいらっしゃい。お久しぶりね」


 暖簾を潜ると、和服姿の美人が笑顔で私達を迎えてくれた。


 店内はカウンターのみ、ニ十人も座れば満席になる。すでに店内は常連で満席だ。

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