96
「取り敢えず、準備はここまで。あとは本番だな。一発勝負だから、そのつもりで」
「わかってます」
「後片付けして帰るぞ」
「はい。シャンプー台は私が洗います」
「よろしく」
髪色が明るくなっただけで、気分まで明るくなる。もう午後十一時を回っているのに、不思議と疲れを感じない。
香坂のマッサージのお陰かな。肩凝りもとれ、体まで軽くなった。
片付けを済ませ、私達は同時にロッカールームに入る。深夜、二人きり。魔法が解けたみたいに、羞恥心に襲われる。
香坂の付けてくれたカーテン。カーテンの中で蓑虫みたいにモゾモゾと着替える私。
「あの……香坂さん。このカーテンありがとうございました」
「別にお前のためにつけたわけじゃない。男専用ロッカーで女の生着替えを見せられたら、スタッフの注意力が散漫し、仕事に支障をきたすと思っただけだ」
なるほど……。
優しいと思った私がバカでした。
「すみません」
意味不明に謝る私。
なんで謝る必要があるのかわからない。
着替えを済ませた私達は、店を出てシェアハウスに向かう。
「類、ちょっと付き合え」
「えっ……えっ……?」
香坂は私の手をむんずと掴んだ。
シェアハウスとは反対方向。駅裏の狭い路地をどんどん進む。
「待って下さい。一体何処に……」
香坂の向かった先は赤い暖簾の掛かった小さな小料理屋だった。
「あら蓮さんいらっしゃい。お久しぶりね」
暖簾を潜ると、和服姿の美人が笑顔で私達を迎えてくれた。
店内はカウンターのみ、ニ十人も座れば満席になる。すでに店内は常連で満席だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます