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シャンプー台でちゃぽちゃぽと音が鳴る。
それが子守唄のようにも聞こえる。
広島に住むおばあちゃんが口癖のように言っていた言葉。『極楽、極楽』
スーッと意識が遠退いた。
「こら、爆睡するな。襲われたいのか」
パチッと瞼を開くと、目の前には香坂の顔!?
「きゃあぁ」
「いつまで寝てるんだよ」
私は頭にタオルを巻かれ、椅子に横たわっていた。香坂は椅子を起こし、お客様にするように、簡単なマッサージを施す。
「蓮さん、私にそんなことしなくていいです」
「いいから黙ってろ」
無償の残業……。
こんな残業なら、毎日してもいいくらい。
「若いのに、肩凝ってるな」
「すみません。蓮さんにこんなことまでしてもらって……申し訳ないです」
思わず愚痴を溢す。
「毎日緊張の連続で……。みんなみたいに上手く接客出来なくて……。美容師の資格もないし、私はみんなの足を引っ張ってますよね」
「お前は本当にネガティブだな。ここで何がしたいんだ? 美容師になりたいのか? それなら働きながら資格を取ればいいだろう」
「……いえ。いずれ商品部に配属されると思うので……」
「商品部の薄暗い倉庫で、一生在庫管理するのか」
「それが与えられた仕事なら、仕方がありません」
「お前はさ、エステティシャンにどうしてなったんだよ」
「どうしてって……」
私の手でお客様を綺麗にして差し上げたいと思ったから……。
「お前は敗けたんだぞ。このままエステティシャンとして敗けを認めるのか。お前にプロ意識はないのか」
プロ意識……。
私はエステティシャンという仕事が好きだし、本当はずっと続けたかった。
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