【9】美男は冷たくして楽しむもの
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最後のお客様を見送り片付けを済ませ、香坂と私を残しみんなは帰宅した。
「蓮さん、類、お先に失礼します」
「お疲れ様」
外は大雨だ。
かなりユーツ。
「早く座れ。明後日はショーなんだぞ」
「はい」
香坂は私の髪をブラッシングしながら、何やら目論んでいる。
「カラーするか」
「今からですか!?」
すでに夜の九時を過ぎている。今からカラーだなんて正直勘弁して欲しい。
「その前にほら、食え」
香坂はキッチンから持って来たサンドイッチと珈琲を私に差し出した。
「えっ? 私にいただけるんですか?」
「女は腹が減るとイライラするからな」
「そんなこと……」
否定しようとしたら、お腹の虫がグゥーッと返事をした。
「お前の腹の虫は正直だな」
「……すみません。遠慮なくいただきます。蓮さんは食べないのですか?」
「男は満腹になるといい仕事は出来ない。いいから早く食え」
「はい」
今からカラーなんて絶対にヤダって思っていたのに、予期せぬサンドイッチと珈琲の差し入れで、許せちゃうから女って単純だ。
サンドイッチを平らげた私は、香坂の人形となる。香坂は一剤と二剤を手際よくまぜ、襟足からトップ、つむじの順に塗布し、根元以外を染め暫く放置し時間差で施術した。
丁寧かつスピーディーに、まるでマジシャンみたいに手と指先を動かす。
カラーリングを終え、シャンプー台に移動。顔にガーゼを乗せられ、視界をシャットダウンされた私は香坂の指先で丁寧にシャンプーされ、あまりの心地よさに瞼を閉じた。
仕事の疲れと気持ちよさから、ついうとうとと睡魔に襲われる。
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