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「捺希君。今日は時間がないから、カットだけ頼むよ」


「はい畏まりました。今日はどちらへ?」


「今日は九州へ出張でね。新しく福岡に出店することになったんだ」


「相変わらずお忙しいですね」


 諸星はすでにハサミを手にし、男性の髪をカットしている。


 北麹春馬きたこうじはるま、四十五歳。ランジェリーメーカー社長。バツイチ、趣味はゴルフ。ドリンクはアップルティー。


 アップルティー?


 あの人が?


 中年のおじさんだよ。

 しかもちょっと厳つい。


 だけど諸星を見る目は、なんか変。


「類、北麹様にゴルフ雑誌を持ってきて」


「はい」


 ゴルフ雑誌、ゴルフ雑誌……。


 私は本棚に並ぶ雑誌から、ゴルフ雑誌を数冊手に取る。店内の本棚は多種多様だ。まるで本屋みたいだな。


「お待たせしました」


 雑誌を両手で差し出す。


 次の瞬間、北麹にお尻を触られ、私は手にしていた雑誌を床に落とした。


「きゃあ」


「類、何してるの。北麹様失礼致しました。すぐに違う雑誌をお持ちします」


 諸星はカットしていた手を止め、本棚から違う雑誌を手にし、北麹に差し出した。


 私は床に落ちた雑誌を拾う。


「申し訳ありませんでした」


「まるで私が何かしたみたいだな。しかも女みたいに悲鳴まであげて。気にくわない」


 お尻を触ったじゃない。

 セクハラだよ、セクハラ。


「形のいいヒップをしているから、職業柄どこの商品の下着か確かめただけだ。勘違いしないで欲しいな。失敬な」


 被害者は私なのに、まるでこっちが悪いみたいだよ。


 大体、触っただけで下着のメーカーがわかるはずがない。

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