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「いらっしゃいませ、ようこそbeautiful magicへ」


「小池様、どうぞこちらへ」


 香坂はまるでエスコートするみたいに女性に手を差し出した。女性はその手に、美しい手を乗せる。


「西野様、お待ちしておりました」


 鳴海店長も同じように手を差し出した。


 まじで?


「小島様、ようこそ」


 三上も同じように手を差し出す。


 これがbeautiful magicの流儀!?


 諸星のお客様は男性だ。恰幅のいい中年男性。流石に男性には手を差し出さない。


 当たり前だよね。


「おや、新しいスタッフ? beautiful magicにしては、随分地味な感じだね? 君は何処の店から来たのかな」


「類は広島なんですよ。まだアシスタントです」


「類君か、地方出身? 素朴な感じでなかなかのイケメンだな」


 イケメン!?


 男性の言葉に、香坂がほくそ笑む。


「錦織類です。宜しくお願いします」


「幾つなの? 可愛い坊やだこと」


 鳴海店長のお客様が、私を見つめて微笑んだ。beautiful magicのスタッフは誰一人否定も肯定もしない。


「この子が噂の錦折塁なの? 噂より地味ね。優秀なヘアメイクアーティストだと聞いていたけど、ここではアシスタントなのね」


「小池様、シャンプー台へ」


「蓮、キモチよくしてね」


 私は受付でパソコンのデータに目を通す。


 小池真理亜こいけまりあ、二十六歳。ジュエリーデザイナー。ジュエリーMARIAは都内に数店舗あり。未婚、趣味は海外旅行。ドリンクは珈琲、ミルクなし。

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