キャラの強い外交作戦

キューイ

部下の大切さ

 わぁ…強そう……そんな子供じみた感想を外交官である僕が抱いたのは先日のことだ。


 隣国の大使殿がやってくると言うからおもてなしのための準備をし、彼らを出迎える。

「大使殿がおいでになりました!」


 僕はそれを聞くと高鳴る鼓動を抑え、笑顔を無理やり作り大使館のドアを開けた。


 その瞬間、僕は絶句した。顔にこそ感情を出さずに済んだもののプライベートだったら驚きの声を上げているだろう。


 隣国の大使殿、というよりその部下たちに驚かされた。


「お出迎えいただきありがとうござます。外交官殿」

 そう言う大使殿の後ろにはまず10メートルほどの身長で筋骨隆々の男。


 その隣に女性、しかし普通の女性ではなく、羽織ったマントの中からナイフやら爆弾やらがチラチラ見えてくる。彼女はニヤニヤしながら大使館の中を見渡す。



 その女性の後ろには二対のライオンを連れた少年が鞭を持って立っている。


 キャラが強すぎる上に一見我が国に喧嘩を売っているのかとも思うがそれを口に出したらいけない。

 隣国の大使はにこやかに手を差し出す。僕もそれに応じたが冷や汗がダラダラだ。


 そのあと両国間の貿易について協議を行うもあまり集中できない。大使殿の後ろに控える奴らがヤバすぎるためだ。



 あーあ、ライオンがカーペットガリガリしてボロボロにしてるじゃないか、高いやつなのに。


「ではこれで。今日は有意義な会談ができました」


 その日の協議が終わって大使殿がホテルへ向かうとボクはぺたんと床にへたり込んだ。

僕の部下も同様に座り込む。堰を切ったように愚痴が飛び出した。


「な、なんだよ!あいつら。キャラ強い上に怖えよ」


「うちの連中ビクビクしっぱなしだ」



 部下の威圧が強すぎて協議の内容も若干隣国がリードしてるような感じだった。僕は自分が情けなく、がっかりした。

 しかしふと閃く。


「これ…使えるんじゃないか⁈」




 大使殿が数日後帰国したあと僕は早速行動を開始した。


 いかにもヤバそうな、強そうな部下を引き連れれば僕自身も強そうに見えて、外交でも有利になるはずだ!



 王様に許可を取って僕はそんな見せかけの部下を探す旅に出た。



 ある街の居酒屋にまず入った。僕のイメージではでかい男は居酒屋で大酒を飲んでいる。

 唯一引き連れたちゃんとした元々の部下に小言を言われつつも店内で部下探しを始める。



「さぁ、お前も探すんだ。強そうな奴をな!」


「は、はぁ」



 部下と一緒に探すと見つけたぞ、いかにもでかくて強そうな奴を。意を決して話しかける。


「あのー。すみません」


「な、何デェァおめえは!!」


 アルコールの吐息が僕にブワッとかかるんでが気にせず話をする。強そうな部下を探していること、そして報酬の話だ。


「ただ僕についてきてくれれば100万!差し上げますから!」


「な、何デェ、そりゃぁ。うんめぇ話だなぁ。よっしゃ、ワイがやったるわ」



 承諾した男は立ち上がり僕に握手を求めた。男の背は僕の3倍近くあり、かなりむきむきで見るからに強そうだ。これなら外交連れて行った時僕も強そうに見えるだろう。



 そんな調子で各地を回り、強そうな、特にキャラ的に、部下を集めた。


 彼らを引き連れて王さまの元に参上した時は王の顔が引きつってたがそれほど強そうに見えたのだろう。王様は僕らを外交に遣わした。



 僕は部下たちと海峡を挟んだ向こうの国に渡った。無論国交を始めるためだ。





 向こうの国の大使館の前で僕は深呼吸をした。ここが1番大事だ。第一印象で強そうに見せるのだ。


「行くよ、みんな!!」



 おう!と国内から選りすぐった仲間たちが返事をすると相手国の外交官が大使館のドアを開けてくれた。


 僕は部下の先頭に立って胸を張って入場する。


 まず僕の後ろに居酒屋であった超ガタイのいい男。キャラ付けのために酒樽を5つほど背負わせ、指にもビールジョッキを指輪のように着けさせた。


 その後ろには僕がある喫茶店で出会った女性だ。彼女はオムライスに高速でケチャップ文字を書くと言う特技を有する。


 だから彼女にはケチャップの入った銃を二丁腰につけさせ、服にもケチャップをつけてもらった。あくまでケチャップだ。まぁ、相当相手はビビるだろう。



 その隣には街の広場であった男。彼は広場で芸をして金を稼いでいたところをスカウトした。


 彼には3メートル近くの竹馬に乗ってお手玉しながら大使館に入ってもらった。


 相手方は彼らを見てビビるビビる。もう面白いほどビビる。



 僕は意気揚々と手を差し出した。


「さぁ…会談…を始めましょう…クックックッ。」



 極めつきのこのセリフ。僕が徹夜で考え、練習したのだ。

 明らかに相手の外交官はビビっている。そのおかげで随分と話し合いが有利に進んだ。その夜僕らはホテルでうまくいったことを祝ってパーティを行なった。


「いや〜キャラってやっぱ大事だよな!」






 その頃存分にびびらされた相手国の大使館はグチでいっぱいだった。


「なんだよあいつら!ビビるわ!」


「竹馬乗ってお手玉してた男が何個シャンデリア割ったかわかるか⁈」



 そこの外交官は随分悔しがった。しかしふと閃いた。


「これ…使えるんじゃないか?」



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