ノスタルジックキャンディ

彩城 あかり

第1話 初めまして

 …あの、キラキラした思い出も、今も、過去も、未来も、全部、全部。夢、なのかもしれない。


 それは、とある村のとある少女の、大切な、大切な秘密の思い出。

「おかーさん、今日も行って来るね。」

「ありがとう、ナギノ。おかあさん、助かるわ。気をつけてね。」

「うん、いってきまーす。」

いつもどうりの会話をして、いつもどうり、森へ出かけていった。

 その日は、霧がかかっていた。

しかし、よく見ると、霧が薄いところがあったので、ナギノはそちらへと向かった。 いつも食材を採っている所とは違う方向だとも知らずに。

 薄い霧の方へ、導かれるように進んでいった…ナギノは気付けば知らない場所にいた。薄いと思っていた霧は、いつの間にか見えなくなった。

 その代わり、人影が近づいてくる。近づいてくる人影は、だんだんはっきりしてきて、姿が分かるまでになった。近づいてきた少年がナギノに話しかけた。

「こんなところで、何してるの?」

「え、あの…道に迷ってしまったみたい…。あなたは…?」

 おそるおそる話しかけるナギノとは反対に、少年は、陽気にしゃべりだした。

暗い、森の中で。

「あぁ、俺?俺は、かくれんぼしてたんだけど、ちょっと深くまで来ちゃったみたいだ。まあ、大丈夫だろ。方向音痴じゃない、と思うし。」

 ナギノからすれば笑ってられることじゃないと思ったけれど、少年は、笑っていた。

「ところで、名前は?あ、俺は、ハヤテ。適当に呼んでくれ。」

「ナギノ。ナギノっていいます。」

「…ナギノ。良い名前だな!」

 ハヤテが笑った。ナギノも、自然と笑った。

ナギノが思い出したように言う。

「あ、そういえば、食料を採りに来たんだった…!」

現実離れしていた感覚が引き戻されていく。

「なぁ、明日。明日ここに来たら、おいしい木の実とか、花の場所…教えてやるよ。」

「ほんと?!」

うつむいていたナギノの瞳に光が戻る。

「あぁ、約束な、ナギノ。」

ハヤテの紫色の瞳にも、光が宿る。

「うん、約束!」

ナギノにとって、こんなにふわふわして、心地の良い時間は初めてだった。









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ノスタルジックキャンディ 彩城 あかり @akariayasiro

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