第17話 初陣
場面は変わり、こちらも十年前。場所は戦闘地帯最前線の基地。スレイは初陣を前に、武者震いしていた。
「おやっさん、俺、これが初陣なんです」
「そうかスレイ。誰にだって初めてはある。無理はするな、生き残ることを考えろ。敵を倒すことではなく、生きることを考える。無理な玉砕は墓を一つ増やすだけだからな」
シェーメルは諭すように言う。
そう、まだあの事件は起こっていない、歯車が狂う前の出来事だ。
「娘さん凄いですよね。エメラさんでしたっけ。もう何人も討ち取っている……」
「ああ、自慢の娘だよ。だが、本来ならこんなぼろぼろの服では無く、ドレスを買ってやりたかったな」
少し寂しそうに笑うシェーメル。複雑な気持ちだった。
「伝令! 敵が攻撃を開始しました!」
「あいわかった。スレイ、行くぞ! 決して無理はするなよ!」
「わかりました、スレイ遊撃隊員行ってきます!」
そう言うと、スレイは防衛地点の市街地へと銃を持って飛び出した。
「はぁはぁ……」
スレイは息を切らす。民家を背に、敵を討とうと思ったのだ。そしてその瞬間はやってきた。
何も知らない政府軍の兵士がスレイに気付かず通り過ぎる。
「食らえっ!」
叫びながら、スレイは銃を撃った。銃弾は名前も知らない政府軍のこめかみを貫通した。倒れる政府軍兵士。
「俺が、やったのか……?」
戸惑いを隠しきれない様子で呆然とするスレイ。
人を……人を殺してしまったんだよな――。何故か涙が出てくる。この人にだって家族はいるはずなんだ。待っている人もいるはず。でも、この人が帰ることはもうないんだ。怖い。俺は何てことをしてしまったんだ――。
その後のことは覚えていない。基地に帰りシェーメルの元へ向かう。
「おやっさん……」
「よく生きて帰ってきたな。その様子だと、誰かを撃ったな?」
そこで一息入れる。
「誰だって、最初は辛い。だが、これも我々の悲願を成し遂げるためなのだ。こんな事をさせて、本当にすまない」
「おやっさん……うあああ」
スレイは泣きつきシェーメルにすがる。シェーメルはスレイの頭を撫でる。
いつの日か、こんなことが無くなるまで。止まれない。
二人の思いは一緒だった。
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