第10話 悪夢

その夜、エメラはとある寸劇を観た。

出演は過去の自分、父親、『狼』の仲間達。

時は十年前。とある日。

題して――「悪夢」


「革命が成し遂げられる日は近い!」

父シェーメルは『狼』に向けて演説をしている。

私はそんな父を見て、とても誇らしくなった。


――ここはどこ? 何故ここに……?

エメラ自身の意識はあるものの、身体が動かない。


「政府軍は今や壊滅! 機は熟した。今こそ我らの革命を成し遂げよう!」

(父が叫ぶと、わぁっと歓声が上がった。

私も戦うんだ!)


――ダメ、戦っちゃダメ!

エメラは必死に叫ぶ。だが声は出ない。


「隊長、政府軍が後方より攻めてきました!」

「俺も出る、隊長が戦わない部隊では示しが付かないからな」

(父さんらしい。隊長で一番槍!)


――行かないで!

父さん、行ってはダメ!


「私も行く!」

(私も戦わないと! そう、隊長の娘なんだから。)

「偉いぞエメラ。お前も銃を取れ! そして戦え!」

「うん!」

(戦うんだ! 革命は絶対に成し遂げないといけないんだ!)


――待って! 行ってはダメよ!

エメラの悲痛な叫びは届かない


「隊長、大変です!」

「どうした? 何があった?」

「同志の一部が政府軍に寝返りました! こちらの情報は筒抜けです!」

「なんだと? 何故だ! みな革命のために血を流してきたのに!」

(酷い……裏切りなんて醜い行為、絶対に許せない。私はこの戦いで革命の勝利を勝ち取る!)


「はっ!」

そこでエメラは目を覚ました。身体が震えるように寒い。喉もカラカラだ。

夢……なのか?

夢にしては余りにも現実味を帯びていて、恐怖が止まらない。

でも、確かに。こんなことがあった気がする。エメラ自身、この夢には見覚えがあった。

薄ら寒かった。さっきの夢は私? エメラは自分自身に問いかける。

そう、あれは確かに私。あんな日があった。ではあの後は……?

何故か思い出せない。いや、思い出さない方が良いのかもしれない。

エメラは苦笑して、ベッドを降りた。

きっと、やるべきことがあるだろう。そして決意は固まった。

明日、皆に伝えよう。私の素直な思いを。

ぼんやり窓の外の景色を見つめる。

今宵は満月。

十年前も、月は変わらず私たちを見ていたのだろう。

私たちは何か変わったのだろうか。

そんなことを思いつつ、エメラは朝日を待った。

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