第9話 衝突

「スレイ! どうしてここに!?」

エメラは驚いて訊ねた。

「どうしてって……ここは俺たちの拠点だからな。ここにいる理由も色々だよ」

「確かに……そうだな。失礼した。また会えて嬉しいよ」

「ああ、俺も嬉しいぜ。これも隊長の導きかもな」

スレイは優しい笑みを浮かべる。

そしてシャトーの方に向かって行った。

「シャトー爺、例の作戦は大成功だったみたいだぜ」

スレイは嬉しそうにガッツポーズをする。

「おぉ、やはり成功でしたか。これでまた、一斉蜂起が起こるでしょう」

「ラジオを持ってきたんだ。ニュースはそのことで持ちきりだろうから聞いてみようぜ」

そう言ってスレイはラジオのスイッチを入れる

少し雑音混じりにニュースが流れてきた。。

『昼頃起きた、政府庁爆発事件の続報です。大統領は意識不明の重体、副大統領が大統領代理を務めることに決まりました。爆発事件の原因は特定出来ていませんが、反政府側によるテロの可能性が濃厚です。副大統領は、非常事態宣言を発令し、犯人特定を急いでいます』

「待ってくれ!」

そう叫んだのはエメラだった。

「これは『狼』がやったのか? スレイ、君が!」

「おうよ、これでまた混乱が起こる。その気に乗じて十年越しの革命を成し遂げるんだ!」

スレイの瞳に火が灯る。

「馬鹿な!? この十年間どれだけの苦労があって、今の生活があると思うんだ! 確かに貧民街を見て、このままではダメだと思った。だが、人々はやっと平和な暮らしを手に入れたんだ! もう銃も爆弾もいらない世の中に……」

そこで一つ息をする。

「『狼』の隊長が……父がこんなことを望むと思っているのか!?」

エメラの悲痛な叫びが響き渡った。

「正直それは分からない。だが、俺はおやっさんが望んだ世の中にしたいんだ。その為には今の政府ではダメだ。金持ちだけが私腹を肥やし、貧しい者は捨てられる。そんな世界、おやっさんは絶対に望んでいない」

「だからといって、武力行使はやり過ぎだ! こんなやり方で国は変わらない!」

「変わるさ、変えてみせる。それが死んでいった『狼たち』に出来る、俺たちなりの供養だ」

エメラはぐったりとして肩を落とす。

これで良いはずがない、エメラはそう思っていた。だが心のどこかで、これも間違いではないと思っていた。

「なぁ、エメラ。断られるとは思うが、頼みがある。もう一度『狼』に加わってくれないか?」

急な申し出だった。

「私は……」

色々な想いが頭によぎる。

父親のこと、死んでいった仲間のこと、かくまってくれた優しい人達のこと。

「ごめん、少し考えさせてくれ……」

エメラはやっとの思いで絞りだした。

「気にするな、ゆっくり考えてくれよ。暫くここを宿にすると良い。流石に政府の連中もこないだろ」

ニッと笑ってスレイは右手をエメラに差し出した。

「これで二度目、だな。ありがとう、スレイ」

エメラはその手を取る。

「今日は祝杯、だな!」

スレイは嬉しそうに笑ってみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る