第2話プロローグ2
私を逃がしてくれたお母さんを助けるために『紅桜』を持って山道を走る。
途中、草や枝で足や腕が切れるが気にしない。
「急がないと...!お母さんが!」
私は息も絶え絶えになりながら走る。
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しばらく走ると村に着く。
そこで私は見てしまった。
「お、お母さん・・・」
お母さんはすでに殺されていた。
必死に抵抗したのだろう。
村人の死体がちらほら見える。
私の中で何かが音もなく崩れていくような感覚に襲われる。
「あ・・・ああああ・・・あああああああああああ!!!!」
(全て私たちに・・・任してよ)
私は『紅桜』を抜刀すると一心不乱に村人たちのもとに走り出す。
「いたぞ!」
「殺せ!」
私は群がる村人を斬り殺す。
「お母さんをよくも殺したなアアァァァ!!!」
私は叫びながら復讐心のみで刀を振りまわす。
しかし、私は刀はおろか武器すら握った事が無いのだ。
すぐに集団にのまれ地面に押さえつけられる。
「殺してやる!貴様ら全員!」
(私たちに・・・体預けて?)
頭の中に姉妹の声が聞こえてくる。
私はお母さんの仇を取りたい一心で叫んだ。
「預ける!だから!村人全員を・・・殺せッ!」
その瞬間、私の体は自分で動かせなくなった。
私の体を乗っ取った姉妹に自分をを預けるように意識を手放した。
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私が意識を取り戻すと、目の前に広がっていた惨状に私は胸が軽くなるような感じがした。
村人が全員殺されていたのだ。
しかも、全ての村人の四肢が切断され首を切り落とされていた。
(これで・・・いいでしょ?)
「ありがとう」
私はお母さんの死体を葬るために、家の裏に穴を掘る。
穴を掘るたびにお母さんとの思い出が頭の中を流れていく。
お母さんを埋葬すると、村人の住んでいた家に火を放つ。
「お母さん・・・バイバイ」
その瞬間、急に体に力が入らなくなり、私は地面に倒れる。
(あなたの体じゃ・・・耐えれなかったみたいね)
「そうなんだ・・・でも良いかな」
(随分と・・・あっさり諦めるのね)
「お母さん死んじゃったから」
(死ぬ前に血の契り・・・交わさない?)
「なにそれ?」
(あなたと私達が・・・また出会うためのおまじない)
「うん、お願い」
私が承諾すると刀を持っている手がひとりでに動き私のお腹を突き刺す。
私は痛みに顔をしかめるが徐々に痛みもなくなっていく。
(これで血の契りは交わされた・・・じゃあね。また会いましょう)
私は指先から灰になり、この世から消えた
その声を最後に私はこの世界での人生を終え、この事件はのちに「殺戮の魔女スローターウィッチ事件」として語られる。
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私が目を覚ますとそこは何もない空間だった。
地面は土ではなく石でもない、頬を付けるとひんやりとしていて気持ちいい。
頬を付けてわかったが、私の周囲が淡く光っており一寸先は闇が広がっている。
周囲の確認をしてしばらくすると、私の目から涙があふれて止まらない。
「私のせいでお母さんが死んだんだ...私にもっと力があれば!」
後悔の後にやってきたものは自分に対する激しい怒り、他者への復讐の念。
何度も地面を殴りつける。
最初は皮が擦り切れ次に指の骨が折れ、そして骨が皮膚を突き破り、激しい痛みが襲う。
私は痛みに蹲るが、しばらくして痛みが引くともう片方の手も同じ行為を繰り返し自傷行為を繰り返す。
そして両手が使い物にならなくなると、ただ泣いた。
この空間に時間というものが、存在するのかはわからない。
時間も忘れ、母との死別を何日も嘆き涙が枯れたころ、私の中に残ったのは不信と怒りだった。
いつの間にかぐちゃぐちゃになっていた両手は治っており、治った手で身体を調べると、私の身体は変化を遂げていた。
具体的に言うと、背中から何か赤黒い液体のような尻尾が6つ生え、どれも骨のようなものが装甲のようにくっついており、よく見ると口のようにも見える。
特に害はなく、身体への収納もできるようなのでどうするかは後回しにした。
「あらあら、変貌具合が普通じゃないわね。なにか大きな負の感情を持っていないとそんな風な能力は発現しないと思うけど」
「いつからそこにいた?あなたは誰」
その女性はいつの間にか私の近くにいた。
長く赤い髪と黒い瞳を持ち、真っ黒なスレンダーラインのドレスを着ている。
玉座のような椅子に座っており、位の高い人物だと私は予想した。
しかし、高圧的でもなければ威厳もない。
何故かはわからないが、この女性は信頼できると感じる。
「何か用でも?」
「そりゃ私の支配しているクルヌギアに正体不明の異物が落ちてきたら野次馬に来るでしょう」
「性格悪いね」
「よく言われる。それよりも昔の約束であなたに渡したいものがあるんだけど、好きなほう開けてくれる?」
そう言って彼女は、似たような宝箱を二つ用意した。
「私自身も中身は知らないから何が出来るかはお楽しみってちょっとちょっと!二つとも開けるのは反則でしょ!」
「好きなほうって言ったからいっぺんに開けて二つとももらう」
「性格悪いわね」
「お姉さんほどじゃない」
片方には、鈍い銀色のガントレットが入っており、もう片方には果実が入っていた。
「結構いいやつじゃん。もう片方は...あなた、悪いことは言わないわ。その果実を箱に戻しなさい。これはあなたを思っての忠告よ」
「そんなに危険なものなの?」
「それを食べればこの世界で一年過ごすことになるわよ!それに食べれば何が起こるかわからないから吐き出しなさい!」
私は一切の迷いなく、果実を食べた。
自分のことなどどうでもいい。
私は人間が憎い。
何が起きようと私に安寧なんて、これからの人生に不要。
「私どうなっても知らないからね。とりあえず一年間だけ面倒見てあげるけどその後のことは責任持たないからね」
「面倒見るなら私に戦い方を教えて」
「あなた結構図太いわね。人の言うこと無視する癖に自分の欲求は叶えようとするんだから。あなた名前は?」
「サラでいい。思い出もまっさらだから」
「確かに髪も肌も真っ白ね。私はエレキシュガル。エレちゃんって呼んでくれていいわよ」
それから一年間、この人のもとでお世話になることとなった。
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私がその少女を見つけたのは、彼女が憎しみのこもった顔で地面を殴りつけているところだった。
面白そうだったから何日も飽きずに見ていたが、流石に不憫だったので声をかけることにした。
彼女の顔を見て、この少女はあの人の子だとすぐに理解した。
顔のパーツが彼女そっくりなのだ。
彼女は母親を人間に殺されたのだそうだ。
私は心底驚き、表情が顔に出そうになったが堪えた。
あの人が人間に殺されるなど、明らかにおかしいが考えても答えなど出るわけもないので、今は少女のことに集中した。
しかし、死んだだけでは私の領土に落ちてくるわけがない。
おそらくだが、彼女は自分の母親を殺した人間を皆殺しにしたのだろう。
そうでなければ、こんな辺境の私の領土に落とされるわけがない。
とりあえず、昔の約束通り彼女に何か与えることにした。
何かいいものが手に入ればそのまま出ていくも良し。
ハズレなら魂ごと自然消滅するのも良しだが、彼女はよりにもよって二ついっぺんに宝箱を開けてしまった。
そして、運命の悪戯とでもいうのだろうか。
あのザクロが出てしまった。
ガントレットは普通に当たりであるが、あのザクロだけは絶対に食べさせてはいけない。
しかし、私の静止を聞かず、彼女はザクロを食べてしまった。
過去にもザクロを食べて一年過ごしていったものがいたが、今回はペルセポネ以上に面倒な人物の娘なのだから、厄介ごとの匂いがした。
だが、私の領土には娯楽がない。
一年間だけだが、相手をするのも良いと思った。
戦い方は、必ず過剰に覚えさせて悲鳴をあげさせてやろうと思う。
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