第6話 図書館イベント

 むー。

 図書館イベント。

 本当は、今日は「十二国記」をやりたかったのだが、つい最近、学校でちょっとしたことがあったので、気になっていることを先に書くことにした。


 それぞれの学校の事情にもよるけれど、子どもたちの読書を推進しようという目的のもと、多くの学校では様々な読書イベントや図書館イベントが行われていると思う。

 全校読書会もそういう活動のひとつだ。

 文字通り、全校で同じ本の内容を読み(場合によっては校内放送でその内容を流し)、それぞれの生徒に感想を書かせて、先生が良いと判断した感想を掲示するなどするものがほとんどではないかと思う。


 うちの学校も、これまでこの全校読書会をおこなってきた。それが今回、どうも職員会議で「やめよう、やめたい」という方向性にどんどん傾いて来ているそうなのだ。

 教員ではない学校司書は、この職員会議に参加しない。いや、参加している学校もあるかと思うが、少なくともうちでは参加を求められない。いや、そればかりか「参加しないでくれ」という雰囲気をバリバリに感じる。

 まあ、理由は分かるのだ。

 職員会議では、個々の生徒のかなりデリケートな家庭内の問題まで先生方のあいだで共有を図ることが多い。それを聞かれないようにとの配慮もあることなのである。


 話がそれた。

 ともかくも、その職員会議で、こんな意見が大勢を占めたそうだ。

「うちの学校は教員も少なくて、分掌がもともと大変」

「それに、あんな読書会には教育的な意義が感じられない」

「みんな大変なばっかりだし、もうやめてしまおう」……。

 図書館担当のA先生は、図書館にいる私のところにやってきてこうした内容を伝え、「正直、四面楚歌状態なんです」と私に愚痴(?)をおっしゃるのであった。

 ちなみに、わが校では今年、複数の先生が手分けして図書館運営にあたってくださっている。A先生はそのうちのお一人だ。


 むーん。

 せっかくこうして学校内に司書が入って、「さあこれからもっともっと生徒の読書活動を活発にしていきましょう」という局面にあって、図書館(あるいは読書)イベントを減らす方向へ舵を切るのか。

 いやいや、いくらなんでも、それはないっしょ? 

 司書を全学校に配置しようと頑張っている最中の教育委員会からも、めっちゃ怒られそうなんですけども。


 まあ、単に放送部や他の生徒、先生方が録音した「放送を聞いて感想を書く」という活動だけでは、確かに教育的な価値は低いとは思う。

 今回は特に、図書館教育に非常に熱心だった昨年度の先生が異動されたのも大きい。今年の読書会担当になったB先生は、多忙なうえに図書館教育の経験もほとんどない方だった。

 その中で、どうにかこうにか準備してくださった全校読書会だったのだが、以前別の学校で行われた内容をそのまま持ってきた二番煎じの感は否めず、やはり密度の濃いもの、実りの多いものにはならなかった。

 恐らくそれが、より反対意見の後押しをする形になったのかと思われる。


 司書である私が事前にもっとイベント内容に絡んでいければよかったのだが、B先生はなぜか私にいっさいの事前相談をされずに、当該イベントを仕切ってしまわれた。そこはいまだに疑問を感じている。なぜ司書が、蚊帳の外に置かれてしまったのだろうか。

 今にして思えば、そこが何よりの痛恨事だったのだ。事前にもっとこちらから、「今回はどうされますか」「お手伝いしましょうか」と訊ねて斬りこんでいくべきだった。

 いや、実際は「こんな作品がありますよ」「読書会で使いやすいかも」と、いくつか本の紹介などはしたのだけれども。

 そして、今回のこの事態だ。


(だったらもういっそ、ビブリオバトルにするか?)


 と、そう思った私だった。

 ビブリオバトルは、最近注目されるようになってきた「本の紹介」を主眼とするゲームである。

 生徒それぞれが自分のおすすめしたい本を選び、ひとり5分間で紹介して、その良さをアピールする。その後2、3分、みんなでその本についての意見交換をして、また別の人が他の本の紹介をする。

 これを繰り返して、最終的に挙手あるいはポイントの合計などをして、もっともよかった「チャンプ本」を決めるというイベントだ。


 具体的なやりかたは色々考えられるが、授業時間1コマでクラス全員が行うには時間が足りないと思われるので、事前にグループでまず第一回目のビブリオバトルをおこない、代表者4、5名程度を決め、第二回目でクラス全体でのビブリオバトルに移行するのがスムーズだろうか。

 もちろん、その後は図書館にその本を展示する。できれば最初から図書館にある本を選んでもらいたいところだけれども、図書館内にない本なのであれば購入を検討する。

 生徒たち自身のこれまで培ってきたポテンシャルにもよるけれども、みんながかなり盛り上がる楽しいイベントでもある。


 第二案として、ほかの司書さんから聞いたのが「昔話法廷」を使った裁判員形式のディベートイベント。

 NHK Eテレで放送された番組である「昔話法廷」は、もとはドラマ形式の番組だったが、すでに書籍としてもまとめられている。


「昔話法廷」Season1~Season3

 今井雅子・著/NHK Eテレ「昔話法廷」制作班・編/金の星社(2016)


 こちらは「さるかに合戦」や「ヘンゼルとグレーテル」などなど、みんなにお馴染みの昔話の内容をベースに、本来の話にはない事実などを加えて、その登場人物の罪を問い、有罪か無罪か、あるいは死刑なのか無期懲役なのか等々を考えさせるものである。

 私も実際の番組を見たことがあるけれど、なかなか興味深い内容だった。


 具体的なイベントの方法としては、この話の中のひとつを使って、まずはみんなで本文を読み(あるいは校内放送として流し)、生徒たちに裁判員としていろいろに議論をしてもらう。図書委員は裁判官役として場を取り仕切る。

 最後は生徒一人ひとりに自分の意見を書いてもらって、良い意見を先生に選んでもらい、それを図書館前に掲示する。大体、こんな感じだろうか。


 今後、大学入試センター試験がなくなって、今よりもさらに考える力や表現する力が必要な試験内容に変わると言われている。読書を通じて自分で考える力を養うことは、そのための下地として大変に重要な部分だ。これらのイベントは、その力を培う上でかなり有用なものではないかと思われる。

 さらに先生方にしてみると、事後の評価もかなりしやすいイベントなのだそうだ。

 プリントを作成するとか、事前に図書委員にイベントの流れをレクチャーするなど細かい作業は司書の私がすればいいわけで、だったら先生の負担はさほど多くならないはず。


 すでに図書館担当のA先生にはこれらのアイデアをお伝えしてあるけれども、もう少し考えてみて、私自身ビブリオバトルに関する勉強をもっと深め、具体的なことを考えたいと思っているところである。


 まあ、何をやるにしても、最悪何もできなくなるにしても、司書である私が無力感に囚われたり、失望して暗い顔になることだけは避けたいところだ。

 ただ愚痴を垂れ流して「誰それがああしてくれない」、「こうしてくれない」と何かをいつも人のせいにしていたところで、物事はなにひとつ好転しない。


 私は、生徒たちが本をはじめとする様々な情報から必要な知識や考え方を得て、自分で様々なことを論理だてて考えられる大人になるための手助けをする、そのためにここにいる。そのために様々なアイデアを駆使して、なんとか少しでも生徒たちや先生方にとって役立つ人間でいたいものだと思っている。


 今回の事態に関連して、つらつら思うところを書いた。

 先進国と比べてみても、全体的にかなり立ち遅れていると言われる日本の図書館教育が、これからももっともっと発展していくことを期待したいところである。



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※参考資料

●「ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム」

  谷口忠大・著/文藝春秋(2013)


●「読書とコミュニケーション ビブリオバトル実践集 小学校・中学校・高校」

  須藤秀紹 粕谷亮美・編/子どもの未来社(2016)

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