第11話 反撃
まどかがリュックサックの中から、今やすっかり見慣れた鉈を取り出す。あの後ちゃんと手入れをしたらしく、落ち切らなかったと思われる血の汚れはあったものの昨日あれだけ人を斬った割には刀身は綺麗だった。
「よぉーっし……いっくよー!」
そう気合を入れたまどかが、力一杯鉈を玄関の扉の鍵に振り下ろす。二、三度それが繰り返されると、バキンという鍵が壊れた音がして扉がゆっくりと開いた。
「えへっ、それじゃお邪魔しまーす!」
明るく中に声をかけ、まどかが別荘の中に入る。ちゃんと靴を脱いでから上がるのは、律儀なのか何なのか。
私もまた物陰に隠れながら、まどかにコッソリとついていく。今のところ、誰も出てくる様子はないようだけど……。
そう思う中、まどかがリビングキッチンに足を踏み入れた瞬間。
まどかの体が、突如前のめりに傾いだ。
派手な音を立て、まどかが頭から床に倒れ込む。その周りを、武装したクラスメイト達が取り囲んだ。
「お、女の子……?」
「どうしよう、よく見ないで殴っちゃった……」
侵入者の予想だにしなかった姿に、クラスメイト達の間から戸惑いの声が上がる。倒れたまどかがどんな状態なのかは、私の位置からでは解らない。
まさか、死……? 私の脳裏を、嫌な想像が駆け巡る。
「皆、騙されないで」
動かないまどかを前にざわめくクラスメイト達を制したのは、緑川だった。緑川は手に持った傘を、倒れたままのまどかに突き付ける。
「この子の持ってた鉈、よく見て。血の痕がある。それに助けを求めるつもりなら、こんないきなり扉を壊したりしない。……殺人鬼本人か、その仲間と見て間違いないと思うわ」
「この子が……?」
ごくりと、皆が息を飲む音が聞こえてきた気がした。束の間の沈黙。それを破ったのは、皆の怒声だった。
「……っ、この人殺し!!」
一人が、思い切りまどかの体を蹴り付ける。それを皮切りに、その場にいた全員が猛烈な勢いでまどかを蹴り始めた。
「よくも、よくもあたし達の友達を!!」
「死ね! 死んじゃえ!!」
金切り声を上げながら、ひたすらまどかを蹴り続けるクラスメイト達。それをただじっと見ていた私だったけど、次第にある思いが浮かんでくる。
どうしよう。このままだと本当に、まどかが死んでしまう。まどかを、何とか助けないと。
けどどうやって。私は一人、向こうは六人。それに私がまどか側についている事が知れたら、きっとただでは済まない。
それでも。あんな目に遭っているまどかを見て放ってなんて――。
――待って。
待って。待って待って待って。私は今何を考えた?
私とまどかはただの協力関係。それだけの筈だ。なのに私は何で今、まどかを放って置けないなんて思った?
そうだ。まどかが死んだら、私の復讐はここで終わってしまう。だからだ。それだけだ。
いつの間にかまどかの事を大切に思い始めているだなんて、そんな事絶対に有り得ない――!
「キャッ!!」
私が胸によぎった感情を必死に否定していると、突然大きな悲鳴が上がった。私は我に返り、クラスメイト達の方を見る。すると、まどかの右手が一人のクラスメイトの足を掴んでいた。
「ひっ!? あ、あれだけ蹴ったのに!?」
「……痛いなあ。今のは流石に痛かったよ」
怯むクラスメイト達を前に、まどかが足を掴んだまま立ち上がる。足を掴まれたままのクラスメイトが、バランスを崩し床に仰向けに倒れた。
「う……嘘よ。あれで立ち上がれるなんて、普通、そんなの、有り得ない」
初めて聞いたかもしれない、狼狽した声を上げて緑川が後ずさる。私もまた、今目にしている光景が信じられなかった。
普通の人間を遥かに超えた身体能力。どれだけダメージを与えてもものともしない体。
目の前の、愛らしい美少女にしか見えない彼女は――正真正銘の化け物なのだと、私は漸く悟った。
「私、ちょっと怒っちゃった。だから――」
まどかが、クラスメイト達の方に一歩歩み出る。怯えるクラスメイト達に、最早反撃の意志は見られない。
「――だから、本気で殺すね」
そして。まどかは掴んだままの足を振り回し、その持ち主を周囲のクラスメイト達に思い切り叩き付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます