古き野篇

文川

宵闇の聖女

　古き野の大地には、数多の奉神（まつりがみ）が住まう。秩序、中庸、放埓（ほうらつ）の三つの理（ことわり）を以て三方（さんぽう）と為し、いずれかの方位に座して、大地に約定（やくじょう）を投げかけている。

　戒律に則し、聖句を心魄（しんぱく）に宿して、奉神（まつりがみ）より祈祷の力を授かる者を使徒と云（い）い、その位階の天奧（てんおう）には聖女を戴（いただ）いて飾る。聖女は、約定に束（そく）されながら己（おの）れの胎（はら）が朽ちるまで、祈りの日々に自らの生（せい）を費やして過ごす。

　ただ神意（じんい）を啓（ひら）けば、奉神（まつりがみ）の現身（うつしみ）として、聖女は依（よ）り代（しろ）たる力を振るわなければならない。遠路を徒歩（かち）で往（ゆ）き、落陽の中、銀旗（ぎんき）を掲げる聖柱（みはしら）の軍勢を、宵闇の聖女は鉄冠（てつかんむり）の備える遠見（とおみ）の巫呪（ふじゅ）の力で見つめていた。