第22話:アラサークエスト
歩く。雄太は荒野を歩く。天気は良くて、雲一つない。
背中にはリュック、手には筋トレマニアのスコップ。
分厚いマントが風に揺れて、乾いた土をザクザクと踏みしめる。
「なんかこう、初めて異世界旅してるって気がしてきたなあ」
来てすぐに放逐されて、フェルフェトゥに拾われて。
復讐だなんだと考える前に、癒されてしまっている。
あの本来の召喚対象だった勇者な少年少女達の顔なんて、もはや思い出せない。
たぶん他に黒髪黒目がいるなら、判別つかないだろう。
肉体労働はしているが、衣食住はフェルフェトゥの宣言通りに賄われ養われている。
なんだかんだで話好きな彼女でもあるから、寂しさも全くない。
こうして少し離れるだけで、その有難さを再確認する程だった。
「……」
ザクザクと、土を踏みしめ歩く。
すでに元の世界の革靴ではなく、フェルフェトゥが用意した靴を履いている。
材質はよく分からないが頑丈そうなブーツで、中々に歩きやすい。
もしフェルフェトゥが居なかったらどうなっていたのか。
そんな事を考えると、ぞっとしてくるが……そんな気分を吹き飛ばすように自作の歌を即興で歌ってみたりする。
「異世界チートでばばんばーん♪ スキルとハーレムふふんふーん♪」
絶望的なセンスの無さは趣味で「読書」くらいしか思いつかない社畜アラサーの業か。
ダメな感じの鼻歌みたいなものを歌いながら雄太は歩いて。
やがて太陽が真上に上ってきて、歌詞すら思いつかなくなってきた頃。視線のその先に、白い何かが倒れているのを見つけた。
「……もしかしてあれ、人か……?」
仰向けで大の字になって倒れているそれは、間違いなく人間だ。
行き倒れかと雄太は慌てて駆け寄っていくと、その人間の顔を覗き込む。
おろしたてのワイシャツのような真っ白な……そんな色のゆったりとした服を来ているその誰かは、どうやら男のようだった。
中性的な美青年といった風のその顔はやはり色白く、目は青い。
そして、その青い目が動いて雄太をじっと見ている。
「……おや。こんな所で何をしているんだい?」
「こっちの台詞だろ……行き倒れかと思ったぞ」
行き倒れどころか、元気そうだ。
安心と呆れの溜息をつくと、青年は倒れたまま「ふうん?」と呟く。
「僕を心配してくれたってことか……」
「なんだよ。何かおかしいか?」
「いや。心配されるってのは素敵なものだね。お返しに僕も君の事を心配しようと思うんだけど、こんな場所に何しに来たんだい?」
お返しに心配するっていうのも不思議な言葉だと思いつつも、雄太はなんだか一つの予感がしつつあった。
「こんな場所っていうか、この先だな。畑に植えるものを探しに行くんだよ」
「畑……ふうん? なるほど。それなら確かにこの先だね」
起き上がって楽しそうにニコニコし始める青年に、雄太は思わず後退る。
「な、なんだよ」
「うん。そこから先って、森になってるんだけどね。所謂未知の生物がたくさん居るんだよ」
「うげっ……」
「人を呑み込むようなのも結構いるよ? でっかい蛇とか」
今すぐ帰りたくなってきた雄太だったが、目の前の青年が何か言いたげなのを見てとると「……で?」と聞いてみる。
「それを俺に聞かせて、どうしようってんだ?」
「僕もついていっていいかい? こう見えて強いんだよ」
ニコニコと微笑む青年に、雄太は少し悩むような表情を見せる。
たぶん……というよりも、ほぼ確実にそうだろうと思うのだ。
「なあ、あんたさ……ひょっとしなくても、邪神だったりするのか?」
「ああ、やっぱり分かるかい?」
「分かるっていうか。こんな所で寝てる時点で普通じゃないっていうか……」
そう雄太が言えば、青年は「それもそうか」と笑う。
「確かにその通りだね。でもまあ、普通はさっきの僕の姿は見えないはずなんだけど」
神霊化、とかフェルフェトゥが言っていたのを雄太は思い出す。
そういえば普通の人間には見えないソレが雄太には観測できるし触れられる、という話だったはずだ。
「フェルフェトゥの拠点が出来た気配を感じてたから、気にはなってたんだけど……作ったのは君だろ?」
「まあ、そうだけど……」
「ん?」
「あのさ。まさか俺を待ち構えたりしてないよな?」
「ははは、まさか!」
雄太の疑問を、青年は軽く笑い飛ばす。
「僕は元々、このヴァルヘイムにずっと住んでるんだよ。だから僕がこの近辺にいるのはフェルフェトゥも知ってるはずなんだけど……それと天秤にかけても、この地に利を見出したってことだろうね」
「そう、なのか?」
「さあ? 僕、邪神の中でも結構嫌われ者だし。まあ、他と仲のいい邪神なんてのは聞いた事ないけど」
ははは、と笑う青年だが、それに雄太は首を傾げる。
「そう、なのか? フェルフェトゥとベルフラットは今のところそれ程仲悪くなさそうだけど」
「へえ、あの二人がかい? ふーん!」
青年は興味深そうに頷くと、雄太へと笑いかける。
「そいつは面白そうだ! ああ、申し遅れたね。僕はテイルウェイ。穢れなき光のテイルウェイだ。君の名前は?」
「俺はユータ・ツキバヤシ。あの二人にはユータって呼ばれてる」
「そうか。よろしく、ユータ!」
まだいいとは一言も言っていないのだが、テイルウェイの中ではもう決定しているらしい。
その押しの強さはやっぱりフェルフェトゥ達の同類だよな……と。
雄太は、そんな事を考えていた。
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