調理

 ドラゴンの肉。それを調理する手段は殆どない。

 調理方法も焼くか蒸すか燻製しかない。茹でるための器具が無いし、茹でるための水が無い。あ、焼き方は二種類選べます。フライパンか直火。好きな方を選ぼう! 俺は違いが分からないからどうでもいいです。

 まず調味料が無い。塩はなんか昭子が知らないうちに用意しているが、それ以外は何もない。胡椒が欲しいな。

『あと、空腹がありますよ翔ちゃん。空腹は最大の調味料です』

「そういう精神論的な話じゃないよ」

 確かに空腹ではない時に食うよりは、空腹の時に食った方がおいしいに決まっている。だが空腹のときに食べるとしたら美味しい物だろう。出来れば美味しくドラゴンミートを食べたいのだ。

 そんなことを昭子に伝えたら、にこりと笑ってスルーされた。悲しい。

『では、ドラゴン肉のステーキを作りましょう。翔ちゃんの好みの焼き加減は何ですか?』

「焼き加減って言われても良く分からないなあ。ミディアムくらいしか知らないよ」

『ステーキをあまり食べたことがないんですか?』

「あー⋯⋯。多分そうだね。最後に食べたステーキの味が思い出せない」

『なら、最初は柔らかめを焼いて、それを食べてから調整しますか』

 そう言って、昭子は火と鉄板を並べる。鉄板の表面に軽く水を垂らす。その水が蒸発するタイミングで、ドラゴン肉を置いて調理し始めた。

 いつも思うが、肉が焼ける音はとても心地が良い。じゅうじゅうと肉の繊維と脂肪が焼ける音。あと含まれる水分が瞬間沸騰し、蒸発する際に奏でられる音はどこか赤ちゃんに奏でる子守唄のようだ。

 肉が裏返される。途端に肉の美味しそうな匂いが弾ける。

 とてつもなく旨そうな匂い。それが俺の鼻腔に刺さり、思わず叫ぶ。

「鶏肉!?」

 凄く鶏肉っぽい匂いがしてきたのだ。

 少し信じられなくて、何度か手を仰いで、鼻に匂いを手繰り寄せる。感じるのは、やはり鶏肉の匂いだ。

 昭子はドラゴン肉を何度か裏返し、焼き目を確認する。

『⋯⋯これで本来なら完成ですが、こちらで成分を確認しますね』

 そう言って昭子は肉を小口サイズに切り分けて、口に含む。それからもごもごと口を動かし、最後にはゴクリ。

『やはり主成分はナノマシン。これ自体は大丈夫ですねー。無害です。ですが、それ以外の成分に不安があります。完全に焼いて抹消した方が良いでしょう』

「完全に焼くってことか?」

『はい。ついでに調理方法について少し考えましょう。味の方も鶏肉っぽい風味だったので、ステーキ風に調理するとあまりおいしくないかもしれません』

「へー。ならどう調理するんだ?」

『蒸しましょう』

 そう言って、昭子はテキパキ行動を始めた。近場に放置されてた簡易燻製機を解体し、組みなおす。

 そうして出来上がったのは、フライパンの上に連なる謎の木造建築。

『蒸し器です。下のフライパンに水を入れて、熱します。そうすると水が沸騰して水蒸気が出て、上にある木の囲いに充満して蒸される仕組みですね。そこにドラゴン肉を吊るせば美味しく蒸されるはずです』

「そんな雑な構造で上手くいくのか?」

 上手くいった。

 完成したドラゴン肉を割ると、中は白く染まっており食べごろだった。

 口に含むと、外はカリカリ、中はもっちりという、ありきたりな食レポ感想文が出てきそうな感触が美味だった。

 味? 鶏肉。とても鶏肉な淡白な味わいだった。塩が必須だ。



 ◇◆◇◆◇



 俺と昭子は塩砂漠の前に居た。準備が完了したのだ。

 用意できるものは用意が出来た。食料はリンゴ(ぽい謎の実)と鶏肉の燻製(ドラゴン肉)が大量にトラックに積まれている。

 そのトラック自体にも細工が施されている。車輪がキャタピラのようになっているのだ。まぁ前後の車輪に布製無限軌道が施されているだけなのだが。これは塩道で車輪が沈まないように施された物だ。

 あとは予備の荷台。槍や弓などの予備武器。へんなの。とてもへんなの。又もや、へんなのがトラックに載せられている。

 昭子が言うには、多分これで大丈夫だと。

 なら、無知な俺はそれを信じるしかない。

 これから何があっても大丈夫なように、頬を叩いて気合を入れる。

『では、行きますよ翔ちゃん』

「ああ」

 出発。ドラゴンちゃんの足が進んだ。

 がらごろとトラックが引っ張られ進む。昭子は何があっても良いようにと、トラックの頭に立って、周りを観察警戒している。

 俺? やることなかったよ。寝ます。

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