農業してる水ドラゴン
目の前の平原が突然終わり、続く世界は農場だった。無駄に立体的な世界からその農場を見下ろせる。
ちょくちょくとトマトっぽい物とかキュウリっぽい実を垂らす植物が並んでいる。その農作物のサイズは果てしなくデカい。農作物から俺たちまでの距離は推定一キロほど離れているっていうのに、その実が認識できるほどに大きい。
そしてそこで、ドラゴンが土を耕している。
「ドラゴンって農業とかやる生き物だったりするんだな」
『なんか色々おかしい気がしますが、目の前でやられると何も言えませんねー』
そのドラゴンは青く、とても水属性な感じがする生物だ。口からハイドロポンプが出てきそうな形をしている。
そんな生物が土を耕していた。前足を必死に動かし土をとっても柔らかく変貌させている。そして耕した土俵を口から水を流して湿らせていた。
「⋯⋯なんかこの世界、本当に良く分からないな」
『そうですねー。でも私達が合理だと思っているものが、異世界ではそうとも限らないと考えられますね』
俺たちはとりあえずドラゴンを見守っている。あのドラゴン図体が大きいから土俵を踏み潰すたびに、土が固まっちゃって柔らかくした意味ないじゃんって笑っていた。
何故なら、
「結局、俺たちはあそこを通って行かないと行けないのか?」
俺たちの通り道に、そいつは存在しているからだ。
『はい。ただ時間を倍掛けるなら、山道を迂回することもできそうですが⋯⋯』
「雪降ってんだよなー。あの山」
俺たちのいる平原。そこを折り囲むように点在している山々は雪でデコレーションされている。雪は足が取られる。いや、あそこにある雪はそこまで降ってなく、表面に軽く掛かっているだけかもしれない。だとしてもそのめんどくさい要素がある時点で行きたくない。
だからと言って、ドラゴンの農場を行くのも⋯⋯
「前、城で寝ていたドラゴンは平和そうでしたし、此処を通っていっても問題ないか?」
『私は、あの赤ドラゴンは眠かったから、私達を見逃していた可能性が高いと思います。なので遠回りの方が良いかと』
「でも雪山だろ? 荷台の車輪もひび割れて引きにくくなっているって言うのに、あんな凹凸とか取られやすい雪道を進むのはヤバくないか?」
『いえ、山と農場の合間を通れば良いのでは?』
「そうじゃん」
そうじゃん。
馬鹿じゃん俺。農場を進めないからっていってそれをガン無視するルートを通らなくていいじゃん。そのすぐ横を通れば良いじゃん。
◇◆◇◆◇
――あの時の俺の頭を揺らしたい気分だ!
俺たちは今、あの水ドラゴンに襲われていた。家一つ分あるんじゃないかと思うくらい大きい水球が降り注ぐ。狙いがテキトーなせいかまだまだ俺達には当たらないが、水球が破裂した余波――水の激流が俺らを何度も襲っていた。
その激流を俺たちは必死に回避している。まぁ回避しているのは昭子だけだが。俺は彼女に乗っかっている。
俺たちの荷台はもうない。逃げるためには荷台は邪魔だったからだ。
昭子は俺を気遣う余裕が無く、ひたすら走って飛んで回避している。俺はそんな彼女に背負われているので全然視点が安定しない。すごい気持ち悪い。
ひたすらぐわんぐわんっと体が揺れる。気持ち悪い。気持ち悪い。目の前の現状についての思考なんて、何も出来ない。
どうしてあのドラゴンは襲ってきたんだ。という疑問だけが頭に残る。残っている。
俺たちはあの農場には一切立ち入っていない。ただその横を進んでいただけだ。
だが、急にあの水ドラゴンが向かってきたんだ。猛スピードで俺たちのところへ急降下してきたんだ。
そして俺らは逃げ続けた。荷台もそうそうに捨てて、農場の作物を盾にやり過ごそうとしても、あの水ドラゴンは作物ごと水球で吹き飛ばしにかかったんだ。
そう、俺は現実逃避をしていたからだろうか?
急に、俺の頭のてっぺんから激痛が走った。
あたまが割れるような痛さ。昭子を握っていた腕に力が入らない。というか腕は昭子から離れた。
『翔ちゃん!!』
昭子の声が遠くに聞こえる。あんなにも必死な大声なのにとても遠くから発音しているように聞こえる。
頭の激痛が少し収まり、周りが確認できるほど意識が保てるようになり、
「あ」
やっと周りを認知できた。俺は今水球の中に飲み込まれている。昭子が回避損ねたのだろう。
俺の視線の先に昭子らしき人物が豆粒みたいに存在している。はるか遠くに存在している。俺は昭子から遠くに居るんだと認知できた。
ごぼごぼと口から空気が漏れ出る。代わりに水が流れ込んでくる。苦しくてむせて、更に水が流れ込み――俺は意識を失った。
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