第164話「準備の終わり」


「色々と手札と情報が揃って来たので一応、整理しておきましょう」


 少年がそう言う合間にも次々にオンラインの全体会議出席者は増え続けていた。


 本日、日本標準時朝5時45分。


 普通ならまだ寝ている時間の人々も北米で活動中の少年を慮って日本側の出席者の多くが早起きで対応していた。


 脳裏に術式を撃ち込んでディミスリル・ネットワークを使わずに量子通信を用いてリアルタイムで各地から出席する人々を電子空間上に構築した大会議場に集めて会議するというのはここ最近定着した一番人気の方式だ。


「まず、北米大陸において最後の大隊の関係者と思われる敵の情報を幾つか取得する事が出来ました。相手は黙示録の四騎士、緑燼の騎士が率いていた葬送騎士団の構成員、更に紅蓮の騎士が率いていた生きた人間の超越者系戦力、更に彼女と近しいと思われる推定で概念魔術を使うと思われる高位の敵です」


 ズラッとルル・スパルナやクローディオの脳裏から抽出された映像情報が次々に会議場一杯に映し出される。


「まず、注目して貰いたいのは紅蓮の騎士の関係者。彼が持っていたと思われる情報の復元に成功したおかげで色々分かりました」


 世界地図とリストが次々に露わになっていく。


『これは……』


 驚く者は多数。


「この情報を持ってきた方の話だと最後の大隊に所属する騎士団の団員達の一部は恐らくこの世界の有史の始まりか、それよりも前から来ていた可能性があります。簡単に言えば、古代遺跡ガリオスの出でしょう。そのまま長い時代を生きて来た相手もいれば、あるいは単純に近年目覚めた者もいるかもしれません。ただ、彼らは非常に強力な術者や能力者だと思われます」


 少年がリストにチラリと目をやった。


「そんな彼らがリストをわざわざ現実に保管していた理由は恐らくですが、リスト自体が何らかの魔術的な代物だから。善導騎士団でも一括契約や制約を課して隊員を管理していますが、あちらもそういった方式を取っていたのかもしれません。まだ、推測の段階ですが、コレはあちらの人員リストです」


 僅かにどよめきが奔った。


「既存の我々が用いる事が可能な国家のアーカイヴを照会、これらのリストに該当する名前を探しましたが、ありませんでした。名前も全て大陸式ですし、こちらの世界の発音ではありません」


 カリカリと指で光の文字を書き、少年が情報に次々訳を加えていく。


「今後の状況次第ではこのリストが何なのか。あるいはどのような利用方法があるのか判明するでしょう。それよりも今回気にするべきは敵の言葉を信じれば、我々を暗殺しようとした事です」


 どよめきが大きくなる。


 会議場は広く議場の中心にいる少年は何処からでも見えるが、誰も彼も横の相手と暗殺の二文字にザワザワと憶測や推測を並べていた。


「クローディオ大隊長の話では超越者系の相手です。精鋭が3人いれば対処可能なレベルのようですが、そういった人員が秘密裡に相手の要人を暗殺というのは今後も極めて重大な損失を招きかねません」


 少年の上空に各種のデータが立ち昇る。


「これに際して今まで温めていた諜報活動での特化戦力の運用を始めます。要は要人防護や相手の武装諜報戦力に対して痛滅者もしくは虚兵装備の一般戦力を最小規模の1個分隊付ける事が承認されました」


 会議参加者の多くは思う。


 これからはビクビクしながら暮らす事になりそうだ、と。


「相手もこちらの人員の家族や恋人や友人や恩師などの類を人質に取ったり、暗殺して士気を下げに来るでしょう。これに対して今のところ戦力を均一に分散する事は悪手でしかありません」


 少年が現在、そういった手練れを退けられる部隊人員の数が少ないという事実をデータで表示後、準精鋭の隊員を倍増させる計画の進捗状況を表示していく。


「一定以上の要人はリスト化し、今言ったように警護を付けますが、それ以外の人々を護る為に新鋭の武装特化した諜報戦力による敵の駆り出し及び敵の活動の抑止は必須。その為、新規部隊を編制します」


 ズラリと会議中の人々の前に大量の武装のリストが並ぶ。


「今まで進めていた技術開発で必要な装備はすぐロールアウト可能。迅速性が求められる事から騎士団と陰陽自衛隊から中隊規模で人員を確保。日米で出来るだけ早く活動を開始。とにかく早さが重要なので独断専行を可とする僕直轄の部署として機能させたいと考えます」


 それに1人も異議を出す者は無かった。

 実質、最初から決まっている事である。


 そして、今彼らの中で一番その部署を動かすのに相応しい人員がいるとすれば、それは確実に少年であった。


「この話は次回の全体会議で活動報告を。では、次に取り上げたい情報がコレです」


 少年の声と同時に周囲へBFCのゾンビ達の情報が立ち上がる。


「先日、情報をお送りした方は見た事があるでしょうが、BFCの新しい同型ゾンビが出ました。彼らもまた超重元素を用いた武装をゾンビに取り付けているようです。黒い骸骨型の小銃弾を回収。解析した結果、あちらの弾丸はD刻印弾相当と思われます」


 相手も自分達に準じる力を持っているという言葉に会議参加者達はようやく自分達の一方的なワンサイドゲームが不可能になる事をヒシヒシと感じていた。


 北米でもイギリスでも基本的に武器弾薬か魔力さえあれば、殆どの戦力は消耗せずに戦えたのだ。


 それはD刻印弾及びディミスリルの武装全般が相対的に飛び抜けた性能であったからである。


 それが今後は同等以上の装備を持った相手が出て来るとなれば、気を引き締めていかねば、すぐに彼らは死者を出す事になるだろう。


「ただし、あちらは我々と違って恐らく武器弾薬に関しては量に制限があるようです。殆ど出現が確認されていませんが、恐らく戦力増強や密かに機会を伺う形で情報を集めているんでしょう」


 少年の言葉にBFCの出現したと思われる目撃情報や未確定情報が次々と日本の各地にマーキングと共に書き連ねられる。


「敵の本隊がどれほどの規模かも今のところ判明していません。が、戦力源として同型ゾンビを使うならば、今後も注視するべきは転移戦術。そして、異相側からのダイレクトな直接砲撃だけです」


 少年が新しい同型ゾンビの情報を周囲に映し出す。


「確認された新型は超重元素を瞬間的に爆縮後、発生する魔力を収束させて異相側に対象空間を根こそぎ放り込む力があるようです。異相側へと送り込まれた殆どの生命体は真空状態で死亡。放り込まれた際の衝撃で死亡。生きていても帰還出来なければ、消耗して衰弱死すると思われます」


 少年が先日クロイが倒した簀巻き型の攻撃範囲と射程内の物体が送り込まれた別空間内の映像を見せる。


 そこには星々のように鏤められた光が輝く暗い空間に土砂や樹木の破片があった。


 が、生物である樹木の殆どは冷え切った様子で枯れていた。


「まぁ、僕らのデフォルト・スーツは宇宙空間対応ですし、最初から異相空間での活動用の技術は開発していたので二日後には全てのスーツと装甲に異相側での活動能力を一斉付与。更に新規生産分は最初から能力を付け加える予定です」


 少年の言葉は本当だ。


 実際、もう既にその改修を行う為のキットが量産されており、各地の装備へ自分達で能力の付与するようにとお達しが出ていた。


「ただ、異相空間からの帰還能力だけは黒武及び黒翔でなければ不可能です。それもほぼ単発か2、3回くらいが限度。また、空間の切断は空間の歪曲による防御しか受け付けない事から、出来る限り破損を避ける戦術、作戦行動の立案が迅速に求められている状況です」


 戦術を組む参謀役達が内心で僅かに苦労しそうだと溜息を吐く。


 別の場所からいきなり戦力や火力が現れるのは脅威だが、逆に別の場所に飛ばされるのも脅威である。


「これに際して黒武、黒翔には高出力のグラビトロ・ゼロが載せられる事が決まりました。先日載せ代えたばかりですが、高出力型に搭載される高重力源を用いて魔導による重力結界を敷き、相手の空間切断を歪めて対抗します。一か月後までに全黒武、黒翔に装着予定です。それに伴って新マニュアルが導入されるので暗記をお願いする事になるでしょう」


 逸早く相手の最新情報を用いて武装を強化改修。


 これが出来るのは正しく陰陽自研が力を持ち、厳然として大量の装備を生産する力があればこそであった。


「近頃、複数確認された案件で一連して言える事なのですが、僕らの弱点。あるいは穴と言えるのはその認識能力です。超越者系の能力者を極少数しか有さない為、認識を狂わせる、認識させない、認識を変換する、というような知覚干渉系の能力で出し抜かれる事が多くなってきました」


 少年が確認された能力詳細を次々に虚空へと文字で浮かべる。


「BFCも最後の大隊もゾンビ以外は少数精鋭。それを最大限に使ってくるでしょう。一応、対応策はありますが、都市部に限ってであって、それも効く相手や効かない相手が分かれます」


 少年が今まで出会って来た知覚に干渉する敵のデータが映像や画像と共に流れていった。


「このような事から相手を認識する戦力として市街地以外、もしくは市街地でも高レベルの知覚干渉能力を持つ相手を打破する切り札が必要です。これはその切り札が揃うまで僕らセブンオーダーズで対応します」


 少年が世界各地へ瞬時に転移あるいは超加速する黒翔や黒武を用いた急行プランを提示する。


「今後、対応出来る機材及び人員の育成が終了したら、即時新部隊の設立となるでしょう。あ、そうそう。後、先程言った紅蓮の騎士が育てていた生きた戦力の方々の協力で色々と捗る結果になりました。これを……」


 少年が頭上のズラリと新薬の実験結果。

 投与結果に関する報告書を並べる。


「能力と遺伝解析結果から魔術師用の基礎能力向上薬剤の開発に成功しました」


『は?』という顔になる者が多数。


「彼女が集めていた層は遺伝的な資質がかなり高く。既存のMU人材の方々に提出して頂いた遺伝データの最上位層とタメを張ります。四騎士から受けた魔力によって更に遺伝子にも変異が起きているようでしたのでソレを遺伝子に組み込む事で僕らの世界基準でも高位術師並みの資質を得られるようになりました。超越者系の遺伝資質があれば、それが開花するおまけ効果込みです」


 敵を使い潰すというか。

 解析して運用するというか。


 少年の様子に彼らは小難しい話は抜きにして『敵も哀れな……』という感想を一斉に抱いたのだった。


 敵を糧にして更なる飛躍を見せる。


 それが魔導騎士ベルディクト・バーンの真骨頂だ。


 強大な敵を前にして、その力を利用しようと考え、実行に移し、現実にしてしまう姿は正しく魔術師であった。


 ―――北米超越者用特殊監獄ティーマインド。


「え~~今日の献立は朝は騎士団定食A。昼は騎士団定食B。夜は金曜日なのでカレーです。カツはロース・フィレから選んで下さい。カレーソースは日本式とインド式でドロドロマイルドかシャバシャバスパイシーの二択。サラダは福神漬けかフルーツの盛り合わせか二択。ラッシーもマンゴー味かバナナ味で二択。では、本日の定期業務ですが、善導騎士団一般隷下部隊の幼年者向けお人形制作です。ノルマは1人10体。マニュアルは此処に置いてありますので、1人1部ずつどうぞ。魔力が足りなくなったら言って下さい。昼間の休み時間が今日はいつもより30分延長です。夕食は7時から7時半までにオーダーして下さい。あ、それと先日の水曜日に頼まれた品が到着しました。各個人は個人口座からの引き落とし承認を電子サインでお願いします。ああ、それと―――」


 蒼い空。

 白い雲。

 大きな煌めく壁。


 巨大な芝生の生えたグラウンドとサッカーゴールと白線の引かれたコース。


 花壇には花が植えられ、当番制で世話をするのだが、今現在は陰陽自研製の魔力増強用の食用植物……カラフルな花々が咲き乱れていた。


 壁端にある樹木は巨大で様々な果実を付けており、蜂がフヨフヨ飛んでいて、それらから蜜を集めて敷地内の巣箱に帰っていく。


「では、本日の定期業務を開始して下さい」


 ロスに新設された超越者用の特殊監獄の名はティーマインドと言う。


 体育館とだだっ広いグラウンドと広い敷地に建つ大きな獄舎は穢いのきの字すら無い白亜の建造物であり、玄関はロココ調の調度品や壁紙が張られ、各囚人の部屋は丁寧な造りで家具も置かれ、無駄に暗い雰囲気は無く。


 ユニットバスやトイレも完備。


 鍵こそ付いているが、その鍵自体が個人管理だ。


 病室には全員分の病床数が確保されており、薬品も豊富だし、地下にはシェルターも完備されている。


 私室は好きに改造してよいと言われていて、囚人達は看守を通して作られた口座の電子決済で外から色々なものを買う事が出来る。


 そもそもテレビも見られれば、ネットも出来る環境だ。


 幾らかの情報が九十九で完全遮断されているとしても日常生活に必要な情報というだけならば、幾らでも手に入るだろう。


「皆さんの前途に今日も神と騎士ベルディクトのご加護が有らん事を……」


 外に繋がる門は1つ。


 一週間の日程はその日その日で看守から伝達される。


 食事は4日間自分達で材料を決済で買って調達。


 3日間はシスコから招聘されて詰めている料理人が献立を作り、騎士団側で認可後に現地のキッチンで調理して提供する。


 看守は朝の朝礼と同時にやって来て、彼らに日程を通達後は書類仕事をする執務室に詰めており、看守の目が無い囚人達は課された業務を終わらせれば、消灯時刻23時まで何をしていても自由だ。


 恋愛するも良し。

 集団でどんちゃん騒ぎするも良し。

 悪企みして監獄を出ようと画策するも良し。


 看守は魔力も無く、魔術も出来ない一般から登用した近所の教会のシスター。


 医者は善導騎士団が外部から送った時。


 もしくは重病人が出たと囚人側が申し出た場合に派遣される。


 ロス内部に造られた監獄であるが、その殆どは市街地の不使用区画を用いて造成されている。


 ロスの幼い子供達が描いた絵を大きく伸ばしてプリントしたレンガ造りに見える壁の外は普通の一般市街地だ。


 外が見える鉄扉はまるで豪邸用かと思うような樹木のレリーフを象った代物で誰もコレが監獄の最終セーフティーだとは思うまい。


 巨大な壁もきっと周辺に越してきたばかりの住民ならば、何かの研究施設か療養施設なのではないかと思うかもしれない。


 そんな場所で今日も黙示録の四騎士。

 紅蓮の騎士によって育成された生存戦力。


 自身達の事を『紅蓮の小騎士団』と名乗る彼らは人生のドン底に投げ込まれたような顔で暗く淀む表情のまま。


 イソイソと業務に勤しみ始める。

 だが、その内に1人。


 その表情が崩れ、いつの間にかお人形さんを作っている間に真剣な目がキラキラし始めた。


「ハッ?!」


 思わず自覚した彼がまた淀んだ表情を作るのに勤め始める。


 仲間達がその様子をジロリと見ていたが、表情が元に戻ると再びお人形さんの裁縫に掛かり始めた。


 そんな中、十代の少女がもはや限界とばかりに身体をプルプルさせていく。


「……何故だ。何故、私にはお人形さんを裁縫出来る才能が無いのだ!!」


 メソメソまでし始めた少女を見た瞬間。

 サササッと周囲の者達が動き。


「教導者様!! 頑張って下さい!! この苦行さえ終われば、昼の食事時です!! 人間は人形を作れるようには出来ていないのですよ!!」


 少女の手元の人形は人形?というくらいに何故か獣型をしている。


 何処をどう裁縫したら、人形型の材料が獣型……それもどうしてか妙に不気味な感じになるのかは謎である。


「教導者様!! いえ、マリア様!! このような苦行!! 代わって差し上げられたらどれだけいいか!!? コツはお教えします!! ですから、頑張りましょう!! いつか、この地獄から抜け出す為に!!」


「は、はい。心配を掛けました……共にこの地獄から抜け出す為に頑張りましょう!! 我らが―――――様の下へ戻る為に!!」


「ええ、我らが―――――様の下へ戻る為に!!」


 彼らが自分達の声が途中で途切れている事にも気付かず。


 一生懸命に人形を作る様子は正しくに満たされていたが、彼らにその自覚は無い。


 幾ら顔を暗くしたところで彼らの心理状況は逐一補正されている。


 顔が暗く成れば、心も暗くなるに違いないとか。


 悪さをすれば、更に辛く苦しい事が降り掛かるに違いないとか。


 そういうハングリーさを保とうとする故のという類のひっそりした抵抗運動は……その運動そのものが彼ら自身の精神を健全に保つ方向に流され、今一成果を上げていない。


 この恐ろしさに気付く者は今のところそういないだろう。


 一致団結するとか。

 相手を慰めるとか。


 それに応えて気丈に振舞い笑顔を見せるとか。


 それは嘗て彼らに欠けていた人間らしい感情の動きや行動そのものである。


 一致団結するというのにしても、共に相手を殺す為に連携する、という彼らが嘗て出来た具体的な方法。


 過去と現在の状況を文字にすれば、それこそ掛け離れた字面であろう。


 その心理的な変質はもはや致命的な程に彼らを狂わせていた。


 元の“紅蓮の騎士様大好き皆殺し万歳集団”から、“監獄を出る為に1人の少女と共に頑張る仲間達”というものに自身が成っているとも知らず。


 彼らの空回りな頑張りは続く。

 此処は監獄。


 人間をさせ、更生させる為の牢獄。


 ダークファンタジーの住人をコミカル少女漫画のノリにするのが人類の心を圧し折る事に近頃磨きが掛った精神入滅系魔術師と言われる少年の最高の成果であるとはお釈迦様とて知るまい。


 彼らの小さな世界はこうして既に滅ぼされた。


 紅蓮の騎士の為に戦い。

 その為に命を懸け。

 人類を虐殺する為に技を磨いた。

 そんな彼らの物語は既に終焉を告げたのだ。


 後に残ったのは牢獄を出る為に無理難題な仄々業務に奮闘、悪戦苦闘する1人の気高い意志を持つ少女と仲間達という話になった。


 その真なる恐怖を味わう事なく。


 強制的にシリアスをコミカルにされた彼らはその事実に泣く事すら出来ない。


 思考誘導の極致はもはやその技術を使われる当人にあらゆる意味で彼らの世界観の崩壊を防ぐを許すような甘い代物ではなかった。


 そんな事実を知るのは今日健康診断をしに来て、囚人達の様子を廊下から見ていたエヴァン先生ばかり。


「(……オレより酷いとはさすが魔導騎士……分かってるじゃないか。そうだよな。人類殲滅の準備してた連中が死刑程度の罪になるわけもない。そして、こういうところでオレよりも容赦が無いってのが何とも……)」


 嘗て牢獄を運営していた男は思う。


 ああ、同類だと思ってたが一皮剥けてみれば、同類とはまったく相手を過小評価していたなぁ、と。


「(お前は幸せにしか成れない。さぁ、不幸になってみろと言われた連中には希望ぜつぼうしかないわけだ。それを絶望と思えなくなったら、試合終了……勝負は付いてるな)」


 シレッと罪人達の投了を確認した彼はイソイソと医務室に向かう。


 この残酷な物語の真実に付いて一つ彼が救いようがないと思うところは……それを彼ら以外の誰が知ったところで止めようとは思わないという事だろう。


 その理由が人類には無く。

 その理由が四騎士にすら無い。


 四騎士の1人が遊び心で作った人類殲滅の芽が無くなっただけだ。


 然して、紅蓮の騎士当人にとっても重要ではないだろう事は彼女の人格情報や最後の大隊や他の四騎士周辺からの評価からも確実であった。


 何かを育てる事が趣味。

 そう、紅蓮の騎士は趣味を実益に転用しただけなのだ。


『教導者様。今日は昼時に週一の軽い健康診断があります』


『そ、そうなのか? 私の身長は伸びているのだろうか……』


『きっと、伸びておりますよ!! ええ、間違いなくご成長為されています!! あの女にセクハラされぬよう我々がしっかりと御守りいたしますので!!』


『ありがとう。感謝を……共にこの困難を乗り越えよう』


『はい!! 教導者様!!』×一杯の囚人達。


 紅蓮の騎士の犠牲者は知らぬところで主からも見放され、毎日をコミカルリリカルに歪ませながら生きていた。


 やがて、その像が自分そのものになるとも知らず。


 この救われようもない構造にこそ、エヴァ・ヒュークは世界の構図と魔術師とやらの理不尽さを垣間見るような気がするのだ。


 騎士団も陰陽自衛隊も相手を殺す刃物ばかり磨いているように思えるが、少年はその先……刃物すら要らぬ相手の殺し方を研いでいる。


「さぁ、仕事するか。ウチの娘へのメールの時間もありゃしないしな」


 それは本当の意味での魔術と言うべき術であり、エヴァにとっては確実に同類以上にもう敵にはしたくない真実畏れるべき御業であった。


 *


 その日、勲章を授与されてから初めてカズマがルカと共に任務をこなす事になったのは北米で少年の準備が終わりそうだという話からであった。


 同行メンバーとして選抜された二人にとってバディを組んでの任務は今後陰陽自衛隊の対魔騎師隊の主戦力としては二人一組で運用される際の試金石。


 実際、今の今まで大事件に対応する関連任務ばかり受けていた事からも能動的な作戦に投入して経験値を稼いでおこうというのが目下安治総隊長の目論見だ。


 それを知っている二人からしてみれば、大きな任務前の妥当な任務として今回の一件を追う事になっていた。


 本日の事件はBFC関連だ。


 先日、ドイツで見つかったBFC関連の重火器生産工場。


 現在も人類生存領域に残されているかもしれないBFCの関連設備の調査発見接収の先遣捜査であった。


 当たりを付けられていた場所に部隊を直接送り込んではBFC側の目を引いて事件が大きくなったり、被害者も出る可能性が高い。


 ならば、少数精鋭で核心が持てるまで調査して、相手が動いたら、その瞬間を潰して相手を制圧するというのが陰陽自衛隊側の考えであった。


 相手に襲撃されるよりは相手を襲撃する側に回る。


 この攻めの姿勢を行う為の撒き餌というのが正しいかもしれない。


 日本国内のBFC関連設備の多くは国家案件と嘗ての先進技術開発の現場であった事から閉鎖された場所も絞り込む事は容易。


 後は周辺の情報を集めて妖しいところをひっそり調査。


 そして、その最初の一歩目から彼らは当たりを引く事になっていた。


「……どうしてこうなった?」


 無線を完全遮断する壁が彼らの通信を途絶させていた。


 現在地は山奥。


 清浄な空気が漂う旧半導体工場の地下シェルターから遠くない何処か。


「だから、言ったのに……」


 ルカがジト目でカズマを見ていた。


 二人がやってきたのは日本の半導体産業の徒花。


 BFC肝入りで造られた工場はその直後にBFCが消滅した事で操業を停止し、従業員が去った後は管轄の厚労省と経済産業省が不良債権扱いで山奥に眠らせたままにしておいた廃墟であった。


 廃墟と言ってもシーリングは完璧に施されており、後からまた操業を再開できるようにという意図が透けて見えるような保存状態の良さを保っている。


 十数年ぶりに開かれた施設の工場。


 厳重なセキュリティは生きており、経産省から送られてきたカードキーで入った彼らが見たのは本当につい先日まで操業していたのではないかと思える程に塵一つ落ちていない工場内部と生産ライン。


 自動で電源がオンになった通路を歩けば、半地下に置かれたラインの全貌が見えて、生産終了分のチップの山が梱包済みで置かれていた。


 それと分からないようにBFCは秘密の製造ラインを隠しているのではないか。


 というのがベルディクト・バーンや上層部の意見であり、それを見付ける為のセンサー類を凝集したバイザーを持って来ていた二人はキョロキョロとラインをあらゆるセンサーで見通しながら歩き。


 何も無いと確認して最後にシェルターへとやってきたのである。


 敷地内のラインがある地点から少し離れた地下への階段。


 その先にある厳重なロックの掛かった扉をカードキーで開けようとしたが、そのロックが外れず。


 仕方なくカズマの炎で焼き切った。


 プラズマカッターとでも言うべき極高温の炎の剣。


 円形に刳り貫かれた隔壁をルカが手を触れて加速。


 押し出して内部への通路を開き。


 オズオズ二人はその電灯も点かないシェルターへと入っていったのだ。


 お邪魔しまーすと声を響かせたカズマが最初にソレを見付けた。


『ビンゴ。何かありますねぇ。コレは……』


 シェルターの地下の隔壁の一部に奇妙な反応がある。


 それがディミスリルに近い鉱物系の資材の反応だと九十九が判断すれば、ほぼ間違いないだろう。


 先行して壁に触って何か出ないかとベタベタ。


 数分で壁から突起を引き出す事が出来るようになった部分を見付けた。


『カズマ。他の部隊を配置に付かせてから開けた方がいいんじゃない?』


『そんな慎重過ぎても困るって。明日には北米戻らなきゃなんだし』


『でも、僕ら二人だけで色々やるのは骨が折れるよ?』


『九十九ちゃんも付いてるし、いいんじゃね?』


 彼らのバイザーには九十九のアバターである白い少女が映っており、現在お勧めする各種の行動及び支援要請項目をズラッと並べて虚空に浮かんでいた。


 ―――【支援部隊の転移準備完了】


『ほら、行ってみようぜ。こう九十九ちゃんも言ってるし』


『はぁ、気を引き締めなよ?』

『分かってるって!!』


 突起を引っ張って捻った彼らは突如として反応した周囲の魔術方陣のような輝きに囲まれて、逃げるより先に転移で飛ばされた。


 こうして九十九の通信も届かない場所で現在に至るわけである。


「どうやら短距離転移。恐らく物理的に密閉した空間、かな?」


 ルカがスーツの魔力を転化光にして当たりを照らし出しながらペタペタと壁を触っていた。


 現在、二人がいるのは鈍い金属製の通路だ。

 通路の奥は分厚そうな隔壁に閉ざされている。


「この輝き。ディミスリルか?」


「どうだろう? でも、魔力は吸われてないけど、通信を完全遮断するって事は本当に一切量子通信の波が届かないって事だから、凄い密閉空間って事だよ」


「スゴイ密閉空間ねぇ……」


 カズマが今一ピンと来ない様子で首を傾げる。


「カズマ……僕らが使ってる通信装備って普通に地中100kmにいても届くレベルの代物だよ」


「え、マジ?」


「量子通信は1キュービット以下の情報だとしても届いているならば、復元が可能なんだ。だから、此処は完全な隔離設備って事。それも魔力波動も通さない。僕らが死んでも誰も気付かないんじゃないかな」


「アレか。密室系事件だな!!」

「殺人事件にならないよう生き残らないとね」


「ま、オレらなら大丈夫だろ。もし抜け出せ無さそうなら適当に設備を破壊して外に出りゃいい」


「……民間人に被害が出ないように加減してよ?」


「分かってる分かってる。じゃ、さっそく行きますか」


 カズマが前衛となって隔壁に近付き。


 先程とは違って酸素を消耗せぬように直接隔壁に手を付いて熱量を流し込んだ。


 ドロリと隔壁が数秒で溶ける。

 その合間を抜けて二人が奥にはいってすぐ周囲は行き止まり。

 だが、吹き抜けの二階部分に出たらしく。


 前方に大きな空間があるのは分かった為、更に二人が魔力の転化量を上げて光を産み出し、遠方に小さな光源をばら撒くように飛ばす。


「「!!」」


 驚いたのも無理はない。

 其処には巨大な船があった。

 翼を持つ船。


 船体の胴体部左右から伸びた翼はまるで鳥のように羽を何枚も重ねたような象形でその中心部は固い甲殻類が使う翅のような骨格を有している。


 輝き方からして通常の金属類ではないのだろう。


 鈍い七色に輝く表面装甲は内部が黒いものの鏤められた星のような輝きが彼らの目を引き付けて離さない。


 全体的に見れば、有機的な禍々しい甲殻類をクルーザー船にしたような重厚さと歪さを兼ね備えた40m程の異様な艦であった。


 胴体部はジャンボジェットのような寸胴型だが、先端に向かうに連れて細くなる事から戦闘機のようにも見える。


「オイオイ。ここ半導体工場だろ?」


 呆れた様子でカズマが半眼になる。


「どうやらBFCはこっそりとんでもないのを国内で製造してたみたいだね」


 二人が吹き抜けの地表部の床20m程下に飛び降りる。


 周囲にはパーツが幾つか置かれており、まったくの無傷で機材を使えば、すぐに組み上げられそうだ。


「それにしても……こんなもん造られて気付かないとか。日本政府も抜けてんな。ベルに手土産が出来たけど、陰陽自研までどうやって持ってこう……転移っつっても万能じゃねぇし。この大きさだとギリギリ大質量体判定で転移機材持って来ないとダメそう」


「一端、これは置いておいて出口探そうよ。ボクらだけじゃ持っていけもしないんだしさ」


「あいあい」


 カズマがルカと共に再び広大な敷地内に出口になりそうな場所が無いかとキョロキョロと当たりを見回し始めた時だった。


 ポウッとその形状的にも空飛ぶ艦だと思われる代物の胴体部に魔力の輝きが導線のように走り抜けて方陣の如く浮かび上がる。


 瞬間的に二人が集合して、背中合わせに警戒態勢を取る。


「お目覚めか?」

「もしもとなれば、破壊するよ。カズマ」

「分かってる。ま、破片でも解析は出来るだろ」


 二人が視線を厳しくしながら小銃を片手に周囲の気配を探る。


『―――ま』


「カズマ。聞こえた?」

「ああ、声がしたな。あの艦からだ」


『お―――ま』


 二人がゆっくりと艦との距離を詰めていく。


『お坊ちゃま。何処でございますか?』


「……女の人の声?」


「ルカ。お前、BFCの魔術使う機械が何で出来てるか知ってるか?」


「胸糞の悪い機械だって事は知ってるけど」


「まだ意識がある状態で運用されてた。あるいはイレギュラーで意識が消えてなかった、としたら?」


「―――そんなまさか?! いや、そうだとしたら、この声……」


『お坊ちゃま……』


 その艦からの声が大きくなった時だった。


 彼らが燈した天井付近の光源が映し出す景色の一角が歪む。


 黒き沼のようなドロドロが溢れ出し。


 二人の小銃弾から放たれた9mmケースレス弾。


 空間是正及び斥力を発生させるD刻印弾が秒速9kmで殺到した。


 相手が出て来る前に飛び込んでいった弾丸の起爆と同時に沼が弾けてパァンと音を立てて散った。


 その後、沼を構成していたドロドロが蒸発するかのように消える。


「どうやらベルが言ってた事は本当らしいな。あっちから出て来る寸前を狙い撃てば、恐らく術式の破砕弾で破壊出来る」


「でも、此処の場所がバレたよ。本格的に猶予が―――」


 ルカの言葉の最中。

 周辺を巨大な揺れが襲った。


 周囲のパーツがガラガラと崩れ、艦の周囲に散らばっていく。


「おお?! 地震?!!」

「大きいよ!? でも、震源地が……上だ!?」


「何?!」


 スーツと脳裏に組み込まれた機材や機能が連動すれば、周辺の状況を即座に把握する事は可能だ。


 彼らが上を見上げた時、天井が何か大質量に押し潰されるように拉げていく。


「ルカ。方陣で熱量遮断。直上吹き飛ばしつつ、此処を護るぞ」


「だから、民間人が―――」


 カズマが肩を竦めた。


「短距離転移。山奥。密閉。つまり、更に地下の可能性が一番高い。もし誰かいたら、死ぬ程謝る事にする」


「……分かった。やって!!」


 ルカが左腕を真横に広げる。


 それと同時に地表を迸る方陣生成用の文字列の群れと象形が巨大な空間の床を輝きで染め上げていく。


「行くぜ。ART11」


 カズマの右手首の周囲に次々と十一個の熱量の凝集体が太陽の如く輝き。


 天井に向けられて射出される。


 カッと光った輝きが爆発するように天空へと膨れ上がりながら伸びて、地下から上方へと今にも施設を圧し潰そうとしていた何かを巻き込んで蒸発していく。


 巨大な熱量が密閉空間から上に奔る様子はもはやマグマが噴出し、罅割れる大地の中に樹木を作るかのようだ。


 巨大な質量が熱量によって何処までも一方向に熱された結果。


 その山奥にある半導体工場の周囲100mが地下から核地雷以上の巨大な質量の昇華と熱量による膨張で蕩けながら吹き飛んだ。


 巨大な熱に融け切ったクレーターの中心点。


 方陣防御によって熱量を遮断された地下設備が剥き出しになり、周囲が吹き飛んだ質量の持っていた熱で燃え上がっていく。


 山火事である。


 だが、それをそのままにしておく善導騎士団ではない。


 不測の事態を予期していつでも行けるように準備していた善導騎士団一般隷下部隊2個中隊が直ちに出撃。


 転移で巨大なクレーターの上空へと現れた。


「お、通信回復したな。つーか、これで運べ―――」


 カズマがそうルカを振り向いた時だった。


 黒武と黒翔全機を地表から巨大な光芒が複数地点より襲った。


「な?!」


 瞬間的に光の中に呑み込まれた部隊が数秒後には完全に消え失せている。


 驚くよりも先に敵の能力に付いてすぐに二人が思い至る。


「まだ、高出力のグラビトロ・ゼロは積んでない!? マズイよ!!」


「報告にあった簀巻き型か。仕方ねぇな。お前はその艦を護れ。もし奪取されそうになれば、中枢以外破壊していい。欠片でも十分だろ。オレが狩ってくる」


「敵は分散を狙って来てると思うけど、いいの?」


「今更1人で複数体狩れないようじゃ、何の為に訓練してきたんだっつーの」


「気を付けて」

「ああ、行ってくる!!」


 カズマがその場から跳んだ。


 跳躍先は魔力波動を用いる小型レーダーに映った敵影の一番近い相手だ。


 少年の背後と両肩の付け根にある小さな装飾型のタリスマンタイプの宝石染みた部位から放たれる波動は通常の魔力に偽装して周囲に拡散し、次々に反射してくる魔力波動を用いて敵の位置を確認出来る優れもの。


 半径3km圏内ならば、十分なデータを使用者に齎す。


 九十九が奇襲を待ち伏せで封じられた事をすぐに学習。


 次々に周辺部隊を遠間からジリジリと包囲を狭めさせていく合間にもカズマの視線の先にはすぐ敵の簀巻き型が見えた。


 頭部の三つの瞳のあった場所がシュウシュウと音を立てて湯気を上げている。


 上空で投げ槍型の炎を数百本生成。


 次々に放ってまだ火が嘗め尽くしていない森林全体に降り注がせた。


 7体が貫かれ瞬間的に焼滅。


 更に隠れていた籠手付きが4体程、粒子を収束する間もなく同じ末路を辿った。


「もういないか?」


 そう自らに訊ねてみても、答えはすぐに返される。


 直上、巨大な漆黒の沼が出現する。

 今度は規模的に恐らく破壊不能。


 だが、出て来るものを火力で焼き切る事は出来るだろうとソレが現れる直前の為にカズマが自らのデフォルト・スーツに付けられている専用機能を解放する。


「献血は社会貢献ってな!!」


 そのスーツの内側。


 肉体に僅かな1mmにも満たない針が無数に突き刺さる。


 それとほぼ同時に極々少量の血液がスーツ内の針を通してスーツ表層に吸い上げられ、同時に装甲の熱量を吸収しながら質量を産み出していく。


 白く白く燃え上がった炎か。

 あるいは全てを燃やし尽くした灰。


 通常装甲の合間を産めるように補填された質量が装甲を増設し、与えられた術式付与によって内部にあらゆる機能を取り込みながら小型の無限者のように顔面まで仮面で蔽っていく。


「変身は男のロマンだッ!! それと未確認沼状物体の領空侵犯はお断りします!!」


 装甲の完全な展開終了と同時にカズマの両手が上空に掲げられた。


 その先から何かが来る。


 機先を制した彼の手の先から迸る熱量だけの光の柱。


 十万℃近い熱量砲撃が沼の彼方から来るソレとぶつかる。


 莫大な放射線を発しながら周辺が蕩けていく。


 それはまさしく太陽の柱。

 プロミネンス。


 だが、彼のスーツが展開した熱量を100m圏内で封じ、放射線すらも閉じ込める円柱型結界が消耗しながら、その威力の余波を市街地に届かぬよう封じ込めた。


 火力の最大展開用に地下でガスを充満させて放射線を電子にして防げる形に変換しながら、その巨大な電磁の本流を磁界で歪めて直撃を避けていたルカは思う。


「(もう君は立派な超越者だよ。カズマ……)」


 カズマの熱量放射終了直後。


 沼はその巨大な熱量を叩き込まれたにも関わらず灼熱する様子もない状態で蠢いて……しかし、不意に爆発の余波らしきものが吐き出された。


「ウオ?!」


 カズマがその爆風を避けるようにして下降する。


 周辺の山は完全に蕩けて山火事どころかクレーターを拡大。


 地殻の一部が露出していた。


 熱量と放射線を一部歪める術式が装甲上で展開されていたが、そのおかげでカズマの白く染まった全身鎧の内部の魔力電池は残量がもう僅か。


 もう一撃大火力は厳しいというのが本音だろう。


「………ッ」


 爆発の後、また数秒沈黙していた沼が薄っすらと虚空へと融けて消えていく。


「勝ったか?」


 周辺に集まって来ていた部隊の幾つかが残っていた残敵の駆り出しの終了と共に現場の消火活動を開始する。


 巨大なマグマ溜り。


 あるいは火山口のような有様の山間部には熱量によって蒸発した水蒸気が雲を作った結果。


 熱湯に近しい雨が降り始めていた。


『カズマ。大丈夫?』


「ああ、何ともない。どうやら敵さんも諦めたみたいだな。もしかしたら、東京を砲撃した時みたいなのが来るかと思って大火力ブチ込んだが良かったのか悪かったのか……飛ばされた連中は?」


『今、九十九が経路越しに生存を確認。短距離転移で戻ってくるって」


「そうか。だが、まだどうやらあっちは諦めてないらしいぜ」


『え?』


 通信越しにルカに答えてから、カズマが目の前に突如として出現した白い球を前に最大限の警戒で構える。


 九十九はソレを認識していなかった。


「何の用だ? アレは警察に届けてオレが一割貰う予定なんだが」


【大門の頚城と同系波長を確認。ベルト・コマンダーズによる確保準備を開始】


「何? 大門って……」


 それがいつものじゃのじゃ言っているお姫様(ガチ)な少女の事であるのは情報からカズマも知っていた。


 そう言えば、一応報告書には書いていたが、その眷属的な代物が自分の祖先だったなと思い出しつつ、確保に入ろうとした白い球体へ熱量の直接空間投射で熔かしていく。


【……情報取得。クリムゾンコー―――】


 球体が完全に溶け墜ちた瞬間。

 九十九がその白い物体だったものを検知した。


「準備か……オレもいよいよ大物認定されたかな」


『カズマ。さっきから視覚同期してたけど、ようやく見えた。アレが敵?』


「後で記憶から再構築してデータだけ見とけ。恐らく敵の指揮関連のAIでも載ってんじゃねぇか? オレが大門の頚城に近いから興味持ったらしいぞ。つーか、超越者級の認識力無いと見れないとかシステムが認知しないとか勘弁しろよ……」


『大丈夫?』


「ああ、それよりそっちの艦は?」


『無傷だよ。これなら無事に陰陽自研まで届けられそうだ』


「今降りる」


 再び敵の再襲撃を警戒しながらカズマが艦の真上に陣取っていたルカの横に降り立つ。


「で、何かまた喋ったか?」


「いや、それがちょっとおかしな感じになったんだ」


「おかしな感じ?」


 首を傾げたカズマの耳に声が響く。


『お坊ちゃま。お傍にいるのですね。ああ、分かります。このキャサリンには……お坊ちゃまの炎の温かさ……誰かを護ろうとする純白の炎……白焔騎士団の誰もがきっと……目も耳も聞こえませんが、この暗闇にお坊ちゃまの炎だけは……』


「……どうやら誰かと勘違いされてそうだな」


「ねぇ。情報に会ったガリオスの騎士団が四騎士の背後にいる最後の大隊の構成員だとすれば……この人の言っているお坊ちゃまって……」


「全部、調べてからだ。ルカ。飛ばしてくれ」

「分かった。九十九にちょっと手伝ってもらうよ」


 ルカが脚を付いたままの艦の真上で目を閉じる。

 すると、ゆっくりと艦が地下から浮上し始めた。

 ルカの能力により、上空へと加速しているのだ。


 そのままゆっくりと機影が陰陽自研のある富士樹海基地に進み始める。


 周囲の巨大な高熱に融けた跡には雨が地表で煮え立って蒸気が緩やかに白煙となり地域を覆い尽すように広がっていく。


 半径1.3km圏内に市街地や居住地が無かった事は幸いだっただろう。


 だが、周囲の山々を全て溶岩の海に沈めて去っていく二人の姿を一般隷下部隊と陰陽自衛隊の各部隊は畏怖を以て見つめていた。


 セブン・オーダーズ。


 片世の一番弟子たるカズマの威力はよく核に例えられる。


 だが、戦術核を乱発するよりも恐ろしいだろう炎獄を産み出して涼しい顔をしている少年はもはや人類の神であった兵器を遥かに超越する何かとなっていた。


 ―――翌日。


 陰陽自研のシエラⅡ製作用の倉庫内。


 ルカとカズマは少年に呼び出されて昨日何とか確保してきたBFCの艦船を横にして大きな機体を見上げていた。


 有機的な船体の各パーツにはデータ解析用の魔術具らしきものが平べったい白銀のタイルのように何枚も張り付けられており、ケーブルも直結されている場所が幾つも見て取れた。


 半地下のドック内にはドローンばかりだ。


 危険かもしれない為、研究者解析人員はドックの外からドローンで遠隔操作中なのである。


 忙しく立ち働くドローンを避けるように歩いてきた少年が手を挙げて、二人に合流する。


「任務ご苦労様でした。カズマさん。ルカさん」


「ああ、そっちこそ大仕事ご苦労さん。テレビで大虐殺か、被害者を救済する為の仕方ない制圧かって議論されてたぞ。昨日、帰って来て驚いた」


 カズマの言葉に少年が頬を掻く。


「いえ、仕方なくはありません。必要な事でしたから、仕方ないなんて言えません。人の命を奪うんです。どれだけ相手が悪かろうと暴力は暴力、殺害は殺害です。ただ、それが現状裁かれようがないというだけで」


「大丈夫? ベル君」


「心配して下さってありがとうございます。でも、今は僕もかなり健康優良児なので大丈夫ですよ。後、弔いは済ませたので化けて出る事も無いでしょう。ある意味そちらの方が酷いかもしれませんし」


「死者の怨念も憎悪も嫉妬も全て浄化済みって話だったっけ?」


「はい。死の魔力が莫大な量で集積されていた場所でしたので。全てあちらで鎮魂と同時に魔力化してきました」


「じゃ、本題に入るか。で、どうしてオレ達を呼んだんだ?」


「今から内部に入ります。魔力は諸々機内で使わない戦力が良いかと思ってお二人を呼びました」


「クローディオ大隊長、は暗殺者の件で忙しいんだっけか?」


「はい。片世さんもあちこちで訓練教官役をして貰っているので引っ張り出せなくて。フィー隊長は鈍ってた部分を鍛え直すのに片世さんと模擬戦。ハルティーナさんとシュルティさんは姉のルルさんと一緒に新しい連携の開発。ヒューリさん達は全員で一個大隊と北米のニューヨークまでのルート上にいるゾンビを事前掃討してます」


 カズマに少年が全員の予定を告げる。


「転移で向かうんじゃないのか?」


「それはそうなんですが、内部の人達を緊急で避難させたりする事もあるかもしれません。海だって封印した海神の神殿が残ってますし、安全かもまだ確認出来てません。何事も準備しておくに越した事はないので」


「お前らしいな。じゃ、さっそく行くか。オレが前、ベルが真ん中、ルカが後ろな?」


「了解。じゃ、ベル君」

「はい。ハッチを解放します」


 少年が置かれた艦の装甲の一部に手を翳す。


 すると、ガコリと内部に装甲が凹んだかと思うと幾つかのパーツに別れて内部に向かって扉のように開いた。


 乗り込み型のアームが横に付けた。

 内部へと入り込む三人は無言。


 そして、内部には電源が入った様子で明るくなった。


 材質は装甲と同じものなのか。

 内部の通路も暗く煌めいている。


 ただ、通常の乗り物とも違ってパイプや電線やダクトが通っている様子はなく。


 完全に屋内だというのに洞窟のような圧迫感があった。


「不用意に触らないようにして下さい」

「ああ」

「うん」


 そのままベルが誘導するままに艦内を進んだ彼らは数十秒程歩いた後、隔壁らしきものが行く手を閉ざす場所に辿り着いた。


「開けます」


 少年の手が隔壁に付いた瞬間。


 その掌から魔導方陣が展開され、幾つかの円環が同時に逆巻くようにして高速回転しながら次々ガチガチと組み合うような音をさせて外側から制止していく。


「九十九の演算能力とウチの術式で解析と同時にロックを解除してます。これ現状の世界で最も高度な暗号とか解けるはずなんですが……ダメですね」


「ロック、解けないのか?」


「最後の一層が突破出来ません。まだ、僕らが知らない技術か知識で閉ざされてます。九十九のデータ不足で開錠は不可能と断定。相手は十数年前の時代でも僕らよりは科学的な面で進んでいたと考えていいです」


「マジかよ……陰陽自研がお手上げとか……」

「それはスゴイね……敵を賞賛するわけじゃないけど」


 さすがにカズマもルカも現在の騎士団や陰陽自衛隊の実力は知っている。


 その技術で開かないとなれば、それはもう現状人類の技術では開かないと言われたに等しかった。


「しょうがありません。無理やり開けます」


「大丈夫か?」


「はい。要は開いたと認識されなければいいんですよ」


「?」


 少年が隔壁に手に持った白いチョークでカリカリと魔導方陣を直接書き始めた。

 そうして一分後。


 魔導で展開していたものとは違ってチョークで直書きした少年が魔力を流すとバカッとあっさり隔壁が中央から左右に空間毎裂けた。


「ああ、そういう事ね」

「行きましょう」

「ベル君て時々、そんな感じだよね……」

「(´・ω・`)?」

「何でもない。さ、ご対面と行こう」


 三人が隔壁の内部に入ると背後で扉が閉じる。


 そして、彼らが目に下のは天井から床に掛けて繋がった柱のような黒い円柱。


 僅かに奔る紅い幾何学模様の輝きが回路のように星々のようにソレの表層を飾っていた。


『お坊ちゃま……そこにいるのですか?』


 少年が声のする柱に手を付いて魔導方陣を展開する。


 すると、その柱の横にジジジッとノイズを奔らせながら年若い女性らしき姿が白黒なシックでデフォルトなメイドさんの恰好で出て来た。


『あら?』


「初めまして。僕はベルディクト・バーン。魔術師です。大丈夫ですか?」


『魔術師殿……これは失礼を……てっきりお坊ちゃまかと』


 メイドが畏まった様子で少年の立ち振る舞いから、相手の力量を察したのかしっかりした様子で頭を下げる。


「お名前をお教え頂けませんか? 色々と混乱している事もあるでしょうが、悪いようにはしません」


『私はキャサリン。キャサリン・アルテージ・ミッツァと申します。エルヴァーナ家にお仕えしている雑用メイドです』


「エルヴァーナ。響きは帝国式ですが、帝国の高名な貴族の家でしょうか?」


『はい。エルヴァーナ家は由緒正しき騎士の家系。嘗て、ガリオス。いえ、その前身国家であったアルバスタやルーファルモの時代から続く名家でした。ガリオス建国時にはイグニシア・クルシスに身を寄せて当時の皇帝に食客として遇され、以降はイグニシアの騎士の家系として存続した家でもあります』


「……此処にいる前後の御記憶はお有りですか? ミッツァさん」


『ああ、ええと……済みません。あまり思い出せず。ただ、最後の記憶はガリオスにおいてアルスお坊ちゃまが騎士団の団長となった日の夕食を……ああ、そうです!! アルスお坊ちゃま!! 二十歳くらいに見える白金の髪に二枚目の顔の超越者なのですが、お坊ちゃまをご覧になりませんでしたか!! お傍にいないとお坊ちゃまはご飯の支度一つ出来ないのです!?』


「ああ、落ち着いて下さい。僕らが見付けた時にはミッツァさんのみで……済みません。そのアルスさんという方は発見出来ませんでした」


『そんな……でも、いえ、そうですね。アルスお坊ちゃまは超越者ですから、心配ですが、大丈夫でしょうか……』


「ミッツァさんが大丈夫だったなら、きっと……それで今自分がどのような状態になっているかお解りですか?」


『そう、ですね……ずっと、暗いところで……心細くなっていたのですが、お坊ちゃまの炎を感じて……きっと、近くにいたと思うのですが、やはり聞こえず、見えず……私は……どうなったのございましょうか? 死んだのですか?」


「いえ、生きてます。少し身体に異常があったようで……こちらで色々と治療しますので、治療が終わったら普通に見て聞こえるようになると思います。済まないとは思うんですが、治療の為に数日お時間を頂けませんか? その合間は意識が無くなるので不安だとは思うのですが……」


『……解りました。お救い下さった方のお話です。治療をお受けします』


「ありがとうございます。では、少し眠って頂いて。起きた時にはちゃんと五感も戻っていると思いますので」


『はい……どうか、よろしく……お願い、致し―――』


 少年が方陣をゆっくりと拡大して、天井と床に付いている接合部が綺麗に離れながら、魔導による空間制御で床の下へと消えていく。


「一次解析の結果だけで言いますが、もう身体は残ってないみたいです。一応、骨髄には生身の部分も残っていたので生体部位から遺伝情報を抽出。身体を培養するのに3日くらいですね。後、生身に身体を載せた際の五感調整に幾らか掛る感じだと思われます」


「やっぱり、魔術具化されてたの?」


「はい。人間の脳の痕跡はありますが、どちらかと言えば、本人の意識を宿したまま変質させて超長期使用に耐える意志表出系の魔術具みたいな感じですかね? よくあちらの大陸では寿命が突破出来ない術者がやる自己保存方法の一つです」


「意識を保ったまま人間止めるのかよ……」


「はい。まぁ、技術的には全てこちらのものとBFC独自の技術が使われているようですが、脳内へプログラムらしきものは今のところ奔ってません。恐らくは意識に術式を流す前にBFCが破綻して、作業が止まっていたのかと思われます」


「ベル君。今の言い様からして危ない事は無いって事でいいの?」


「はい。ただ、もしもがあります。こちらで一応保険として制御機材や術式を精神や肉体には組み込ませて貰いますが、後でご本人にも説明します」


「で、記憶の解析結果は?」


「恐らくですが、ほぼ間違いなく白滅の騎士のメイドさんですね」


「そうか。ってー事は被害者なんだな。BFCの……」


「記憶の声が一致。背格好が一致。言動やイントネーションが一部一致。超越者で炎を使うというのも一致します」


「それでオレと間違えたのか?」


「見る限り、ほぼ完璧な好青年……カズマさんとは違って性格はルカさん似ですかね?」


「つまり、カズマの上位互換?」

「ちょ、その発言はすげー傷付くんですが」


 ルカの言葉にカズマが汗を浮かべた。


「イグニシアの皇族の遠縁で没落中だったようですが、それでも傾いた程度でそこそこの財力や資産は有ったようで」


 少年が二人を連れて後は外で話そうとした時だった。


 不意に周辺の床や天井に罅が入った。


 そして、崩落が始まると少年がすぐに方陣防御を張って、カズマとルカを引き寄せて、そのままルカの加速で崩れた場所を突き抜けるようにして外に出る。


 すると、艦全体がまるでパズルのピースのようにガラガラと細かく砕けていく様子が見て取れた。


 ドローンは退避していたが、興味深げに解析用の術式や観測機器を向けている。


「中枢が無くなったら崩壊する仕掛けだったのかもしれません」


「せっかく鹵獲してきたのに無くなっちまったな」


「いいんじゃない? 別に一日近くデータは取ってたんだし」


「いや、鹵獲兵器の現物だし、一応モッタイナイと思って」


「あ、まだ素材は研究中ですが、中身の仕組みと動かし方と相手の技術面は殆ど完璧にデータが取れたので別に……同じものは素材さえあれば、造れると思います。破れなかったロックも方法自体はデータで丸写し出来ましたから。そんなに拘るものでもないですよ」


 少年達がワヤワヤするドローンの中に降り立った後、共に倉庫から出ていくと丁度陸自の佐官級の人々と出くわした。


「これはこれは騎士ベルディクト。こんにちわ」


「はい。皆さんはこちらに装備品の受け取りですか?」


 1佐、2佐、3佐が其々に2人ずつ。


 それだけで彼らの下に付く部隊の数は数百では利かないだろう。


「受け取りに転移を用いると物流情報がBFCや四騎士相手だとバレる可能性もあるとの事で補給部隊を随伴して日本各地に搬送する計画でして」


「ああ、それで……例の支援装備の件ですよね?」


「ええ、あの装備を陸自のみならず。全ての自衛隊基地に配備する事が決定しまして……弾薬生成用資材の大量提供感謝しています。この忙しい時に数十万人分も確保して頂いただけ御の字ですよ」


「いえいえ、何事も助け合いの精神ですから。まだ、生産能力が足りない部分は僕が補う形でこれからも幾らかは準備させて貰いますよ」


「頼もしい限りだ。そちらは陸自のカズマ3尉とルサルカ3尉だね?」


 直立不動だった二人が敬礼で返す。


「いや、楽にしてくれ。セブンオーダーズの君達に実質おんぶに抱っこな我々だ。上司面していいのは安治君だけだろう」


「「はっ!!」」


 二人の真面目な上官への態度に彼らは何処か好々爺のような笑みを浮かべた。


「特にカズマ3尉。君は友好国を救ったのだ。その胸の勲章に掛けて偉そうにしろとは言わないが、実質的には我々自衛隊の枠内にないのが君の持ち味にもなっている。我々は少し偉そうな近所のおじさんくらいに考えていてくれ」


「陰陽自衛隊はほぼ半分以上がもう新規のMU人材と変異覚醒者で占められている。これからは君が彼ら新規に入った隊員達の目標だ。カタセ君は……まぁ、目指すべきものだが、憧れるものではないからな」


「それは分かります」


 思わずカズマがそう返すと佐官級の男達は苦笑した。


「君が一番弟子だという事も聞いている。二人で新たな組織を引っ張っていってくれ」


 肩を叩かれたカズマが再び敬礼すると彼らは一度少年に頭を下げてからすれ違って別の通路へと入っていった。


「……ぁ~~緊張した。久しぶりに上官とか気にして挨拶した気がする」


「君もああいう時と普段じゃ違い過ぎだよね」


 ルカが気苦労が増えたカズマを労うように微笑む。


「ま、勲章貰ってから何か陸自とかだけじゃなく空自や海自の人からも声掛けられるようになったから、上官との節度ある会話とか礼儀作法を隊長に習い直したんだよな。いや、皆良い人だけどさ。やっぱそういうの大事じゃん?」


「……大人なカズマとか君本当にカズマ?」

「酷ッ?!」


 ガヤガヤしながら彼らがその場を後にする。


 もう数日でニューヨークへと出発するセブン・オーダーズ。


 その前にまた大きな出来事があったものの。

 彼らの旅立ちは順調なように見えた。

 そう……その日が来るまでは……。

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