第27話「凱旋」


「勿体無い。あれだけの重火器。かなりの額で捌けたはずだが」


 ディオが肩を竦めて要塞を後にする道を直走るキャンピングカーの後方でハンターの一部が見送りに来てくれている様子をチラリと見て手を振りながら呟く。


「馬鹿者。あれだけの量をあの都市で捌けるわけがない。そもそもこの車両の屋根のミニガンの複製品と後は遠距離用の対物ライフルが少々、サブマシンガンがメインだ。都市の住人全員に配る気か?」


「まぁ、分からなくもないが、それにしても魔導で耐用年数を80年くらいにした弾薬やオレ達が使ってるのと同じ耐久の重火器まで用意するのはやり過ぎじゃないか? そもそも弾薬を20万トン?だったか。原子変換レベルの事してまで弾薬を無理矢理作るとか……爆発したら吹き飛ぶだろう戦争でもするのかって量なのはどうも……」


 殆ど要塞な壁の中、中央から続く地下に再び掘削とブロック積みと鉄の圧着で巨大な倉庫が次々に作られた。


 一度やった手法の再現だからこそ、その要領は極めて良く。


 将来は弾薬の減少と共に避難場所やら生鮮食品の保管庫やら色々と使われていくことだろう。


「あの要塞の規模から言えば、全周包囲されて内部の師団が応射し続ければ、一年と経たずに消し飛ぶ量……精々その程度だ」


「あのー重火器の消耗を考えてませんよね? 大隊長殿」


 クローディオが分かってて言っているなと半眼になる。


「ふ、今回の遠征で随分と稼がせて貰った。これを元手にして更に重火器と弾薬をあの方法で再度大量生産する。供給源に困ると思うか? 部品単位から何万と用意出来るのだぞ?」


 後方には皮袋が大量に詰まれており、殆ど皮袋を踏み台にして屋根裏へ続く梯子を昇らねばならなくなっていた。


 その中身がチラリと袋の端からは零れており、文字通りの黄金色の粒子が少し散らばっている。


「まるでこれから人類最後の大戦争でもしようって話に聞えるのは気のせいだと?」


「そうか? 我々は1000匹単位なら今や楽に倒せる戦力になっている。だが、それでもゾンビが一行に減っている気配は無い。あれだけ掃討したのに7日で荒野にはそれなりの数が戻ってきていた。ベルが幾ら防音用の術式をブロックに込めて固定化したとしても、一度戦闘が始れば、絶え間なく敵は集まってくる。我々と違い、銃弾が当たらないこともあるだろう。多くて困りはしない。そもそもあそこはミニガン以上の火力は無い。砲撃用装備が無い時点で弾薬の消費はより少なくなる。砲兵隊もいない以上、携行火器や設置した銃座で兵隊が毎日撃ち続けられる量と考えれば、この世界ならば妥当な備えだろう」


 ディオは一つの小国が消費する年間消費量を軽く数年分以上数日以内で備えたことに対するツッコミは捨てる事にした。


「そもそも最後は防備を固めたり、建材に穴を開ける用のドリルを造ったり、レールを敷いたり、資材は殆どおまけだからな」


 フィクシーが地下倉庫や井戸になった中央の巨大になった建造物を最後に一気に作り終えた後、清々しい顔をしていたベルの顔を思い浮かべて、僅かに笑みを浮かべる。


「まぁ、坊主もこの世界の電化製品は作れない、万能ではないと分かった事もあるし、今後も出来る事の限界を見定めて活動してかなきゃならない、か」


 回路や糸を寄り合わせるような複雑な形状の密集した物体の複製は元々の物質があっても出来ない為、電球こそ何とか複製したものの、その後の生活用の電子回路を用いた製品を使う施設などは随時都市部から持ってきて品を使って稼動していくとの話。


 そもそもこの世界の機械に然程詳しくないベルにソレをコピーしろというのも無理筋な話であった。


 大抵、魔導で生産出来る便利な道具というのは魔力を用いる事が多い。


 殆どの機器が、巨大な動力炉で生産された純粋波動魔力と呼ばれる魔力を積層圧縮化した異世界で言うところの電池が必要だった。


 機械そのものを設計する技師でもないベルにはそれこそ純粋な素材の合成などならば高度な仕事を任せられるが、単なる電子式の目覚まし時計を作らせることが出来ない。


 という事が二人にもようやく理解出来ていた。


「ふふ、疲れたようだな。今日も相変わらず可愛い寝顔だ」


 今現在、クローディオが運転しており、ベルは助手席で眠りこけていた。


 ヒューリもまた明け方まで野菜の栽培をして、現地での活動を続けるハンターや技術者達の食料を大量に生産していた為、今は後方の屋根裏で睡眠中だった。


「……ずっと聞きたい事があった」


 フィクシーがそう助手席の後に凭れて運転席の男を見つめる。


「愛の言葉ならお断りで。これでも妻は今も愛してる」


 溜息一つ。


「通信の件だ」

「どの?」


「お前と出会った日だ。こちらはずっと定期的に発信し続けていた。だが、数百km圏内に反応は無かった。だが、本当ならオカシイだろう。お前もまた発信していたはずなのだから」


「………こっちも通信は試していたが、誰も出なかった。魔力波動の周波数も確認したが、受信出来ていなければおかしかった。何か変だなぁとは思ってたが……まぁ、考えるに……」


「ゾンビを培養している連中が南部でジャミングしていた、か」


「恐らく。坊主を車両毎の転移で迎えに行った時もだそうだ。通信が通らなかった。あの死を魔力化する術式に干渉されたわけでもないはずだ。完全に用途が違う。魔力波動は概念域と通常空間に内在するものが重なることも無いとすれば……」


「やはり、ベルが言っていた通り、七教会が関わっていると?」


「あの鎧は確かに高格外套に見えた。幾らかカスタマイズはされていたようだが、戦った事もあるこちらから言わせて貰えば、殆ど本物だった」


「戦った? そんな経験があるのか……随分とやんちゃをしていたのだな。入団前は……」


「はは、ちょっと嫁さんを救えなかった地域の警邏をね。騎師でもない一般連中と一悶着起こしてボコられて……その時だったか。団長がオレに傘を差し掛けたのは……」


「フ、団長あのひとらしい」


「ああ、あの人らしかった。まったく、どうしてあそこまで単なるチンピラにしか見えなかったオレを教導隊なんかにスカウトしようと思ったのか」


 二人の間に沈黙が降りる。


「15年前のゾンビの大発生【BFビッグ・ファイア】……そして、七教会の高格外套を着る謎の騎士達……か……我々の世界が関わっているのは確実だな」


「予断が過ぎるかもしれないが、あの魔術災害に巻き込まれた連中が七教会の装備を使ってるって考えは邪推か?」


「可能性の一つだ。だが、全ては確めねば分かりはしない。とにかく南部への橋頭堡は出来た。まずは騎士団との合流が先決だ。全てはそこからだろう」


「了解だ。大隊長殿」


 二人が深刻に真面目な話をしている最中も少年は眠っていた。


 夢すら見ていた。

 それは小さな頃。


 忙しく研究する両親が構ってくれないからと向かった祖父の庵での事。


 南部に珍しく褐色の肌や浅黒い肌とは無縁な家族。


 随分と山奥で生活し、必要物資は館に街の業者を使って運び込んでいた。


 そんな中でも特に館から少し山を登った場所にある庵はベルにとっての遊び場で祖父に面倒を見てもらえる丁度良い場所だったのだ。


 魔術師として、その頃は鍛錬していたベルが毎日のように友達もいないまま、森などで遊ぶ中。


 それを不憫に思ったのかどうか。

 祖父はよく“お人形”を造って彼の遊び相手とした。


 それは時に剥製の鹿であったり、熊であったり、本当に生きているとしか思えない狼である事すらあったが、祖父の魔術が解ければ、皆動きを止める剥製だった。


 そんな毎日を送っていたベルが物心付いた時。

 祖父が案内したのは庵よりも更に奥にある洞窟。

 そう深いものではなく。


 精々が数m先が行き止まりの洞穴には……鎧が縫い止められていた。


 中身の無い空っぽの鎧。


 見た事もないソレに首を貸しげた少年に祖父は昔の戦利品だと言って、世界の外の事を語った。


 巨大な因果を引き連れた死の権化たる超越者達の事。

 人間とは異なる異種、人間と異種の混血である亜人の事。

 其々の種族の頂点に君臨する神に等しき存在達の事。


 人の世をたった一世紀にも満たない時間で変えてしまった最強の能力者。


 七聖女とその兵士達の事。


 そして、その者達が立ち上げた七教会と相反する極限の不死者たる魔王の事。


 何でも知らぬものなど無いような祖父の語る物語に少年は夢中になった。


 お人形に囲まれて鎧に抱かれるようにして訊ねることが幸せだった。


 ああ、それは少年が大きくなっても続いていて……家族の死と共に唐突な終りを迎えたが、確かに……彼の中には全ての話が生きている。


 魔導を用いるようになってもまた無限のように語られた祖父の物語が少年の脳裏には廻っている。


 最後に祖父が語っていた話はあの鎧のものだったような気がした。


 祖父の全盛期。


 急速に大陸から七教会の介入部隊による戦争の根絶が進められ、七聖女達が猛威を振るっていた頃の事だ。


 当時、技を磨きながら傭兵をしていた祖父はソレを仲介してくれる昔は偉い王様が治めていた国に所属して戦っていたのだという。


 しかし、戦争が無くなっていく最中。


 魂魄や死霊などの死を司る術師であった祖父の下に一件の依頼が舞い込んだ。


 その国の武門の者達。

 急速に力を失っていく者達が願ったのは古の王達の復活。


 あの旧き善き血塗られた世界に君臨していた本当の理不尽を伝説の中から蘇らせれば、再び戦乱の世が訪れる。


 そう乞われて祖父は仕事として、古の力を目覚めさせる旅に出た。


 今や存在しない国や太古に消えた強大な者達。

 それを訪ねる事は術の深奥に触れる事でもあったのだと。


 そして、幾度かそういった者達を蘇らせた祖父は名を挙げ、北部三国と呼ばれる大陸北部の大国の一つで呪いを学んだ。


 そうして地元へと戻ってきたのだと。

 その御伽噺染みた言葉の中。

 それでも頑なに祖父はベルの後の鎧を見ながら言っていた。


静寂しじまの王を蘇らせてはいけない』


 頭を撫でながら言う祖父にどうしてと少年が聞いたならば、その答えには何処か哀しげな瞳でこのような言葉が返って来た。


『死が死する日まで人が死を大切にしなければならないからだ』と。


 *


 壊れ掛けたマンションの一室。


 未だに板切れの看板が掛かる謎のカタコトなハンター達の根城の手前。


 完全に瓦礫になって封鎖されている区域がある。


 人がいない為、逆に治安は良いという何とも言えぬ事実を以て、その周囲は静寂に包まれているが、今あの要塞建築から帰ってきた4人は一転して騒がしい程に瓦礫の撤去と施設の設営に忙しくしていた。


 帰宅から5日。


 彼らが自力で色々錬金術的な事をした成果である地表から地下に掛けて大量に掘った土砂などから抽出された砂金が山程。


 その数百万倍以上の土砂を精錬したご褒美みたいな大量の燃えないゴミはバージニア・ウェスターに呆れられながらも本当にゴミとして市に引き取られた。


 理由は言わずもがな。


 そんなの貧弱な市場に流されても困る市側とそれでバージニアに外貨獲得手段を与えるついでにお願いを聞いて欲しいフィクシー達の利害が一致したのだ。


 無人の瓦礫の山が鎮座する一角をくれという彼らに今度は何をする気?と訪ねたバージニアだったが、騎士団の合流後の拠点が街に欲しいとの言葉に納得した。


 というわけで彼らは四人で要塞建築のノウハウで瓦礫を撤去し、その瓦礫を元素に還元し、大量の色の違う砂山を道端に食み出そうな程に溢れさせ、不可視化ゴーレムに夜間作業させつつ、精錬したブロックをガンゴンガンゴン積み上げては本当に積み木感覚で善導騎士団の拠点を設営し始めていた。


 近隣住民からは何か夜間に無人のはずの区画の様子がオカシイという苦情が殺到。


 ついでに瓦礫が無くなっていた。

 砂山が沢山出来ていた。

 見知らぬカタコトの連中が更地で会合していた。


 朝になったら大量のブロックが積まれた煉瓦造りの施設みたいなのが出来ていた。


 と、流言飛語が飛び交った。


 元々、人口が激減しており、人口密度は一部の区画こそ高いが、基本的には閑静な治安の良い場所での出来事である。


 市庁舎側は対応に苦慮していたが、後一週間もすれば、設営が完了するので待っててねという旨をフィクシーから伝えられた手前、嘘でも本当でもない言葉でノラリクラリと決め込み。


 ハンター達の一部は既にカタコト連中がヤバイ連中である事を南部で働いていたハンターの帰省組みなどから聞いていた為、あっと言う間に噂は広がり……彼らは尾鰭があらぬ方向に飛んだ結果として“滅び掛けた時代に顕れた謎の超技術カルト結社”になっていた。


 病院から流れた話も混ざっているのか。


 もはや、教会の横のマンションには危ない新興宗教の事務所があるのだと確信されてしまったのだ。


 魔導は完全に暗黒の生贄の儀式みたいなものと思われ。

 多くの老人達が『ああ、世も末か』みたいな反応だった。


『オイ。あそこの教会には近付かない方がいいぜ。どうやら噂になってるカルトと繋がってるらしい』


『市庁舎の連中もかなり取り込まれてるって話だ』


『夜にあの区画を通るとな。何か大きなものが歩いたような足跡がズシンて物音と共に出来るんだとよ。はは、冗談みたいな話だろ?』


『でもよぉ。こんな暗黒の時代に魔法使いが出て来たとか言われても、何も驚かねぇよ。だって、オレ達ゾンビを相手にしてるんだぜ?』


『お、オレ知ってるんだな!! れ、例の連中が大きな袋を何個も何個もッ!! な、中身がちょっとだけ見えたんだな!! き、金だった!! アレは絶対金だった!!』


『あの連中の羽織ってるコート。あれに書かれてるのがあいつらの信じてる神らしい』


『ヒーローは顕れねぇんだろうな。どうなっちまうんだ。この都市は……』


『あ、オレそろそろ帰るわ』

『今日は早いな。どうしたんだ?』


『実はよぉ。市庁舎でバイトが募集されてて、積み下ろしのをちょっとな。で、なんだが……どうやらあの区画付近から重火器が大量に護送されるらしい』


『あ、その話なら聞いたよ。ハンターの兄ちゃんが、金は出ねぇけど、ミニガンとサブマシンガンが現物で支給されるって言ってた』


『マジかよ………』


 このような言動があちこちで聞かれ、更に人気が少なくなった区画は治安が劇的に良くなるのだが、人がいない為に安全になるというのも本当に皮肉な話であった。


「やっぱいねぇなぁ」


 朝からベルが結界を張って外部から違和感が感じられないようにした区画内で市庁舎から借りて来た測量用の機器を横にいつもはナンパな元英雄が作業着姿でポツリと呟く。


「どうした? ディオ」

「いや、何つーか。人がいない気がして……」


「騒音は殆ど無いはずだが、何か工事をしているのは分かっているのだろう。巻き込まれないようにしているのかもしれんな」


「なのか? ぅ~~ん」

「あ、ディオさん。お野菜の配送行って来て下さい」

「あいよ」


 マンションから出てきて区画内に入って来たヒューリがエプロン姿で頼んだ。


「ヒューリ。内装の施工業者は何と言ってる?」


「朝一で出掛けた時に聞いたんですけど、区画丸ごとだと人件費だけでかなりの額になるって。後、時間が掛かるからそこだけはどうにもならないと」


「ふぅむ。金は心配要らないが問題は人員か。バージニア・ウェスターに掛け合ってみよう。こちらで資材は出来る限り用意しておく。設備の施工に人を頼めないかとな」


「良かった。騎士団の拠点……これで作れそうですね」


「ああ、これだけの大きさがあれば数百人程度は何とかなるだろう」


 二人の目の前にはこの数日でざっくりと作り掛けの2階立ての建築物が十数棟見えていた。


 宿舎、食堂、倉庫、講堂、鍛練場、燃料貯蔵庫、駐車スペース、作業場、数千人は収容出来るだろう避難所。


 何百人もの団員達を招き入れるには十分な広さが確保されている。


 家具や寝台などはさすがに石造りにすると寒々し過ぎるし、内装もまだなので入れられていないが、その内に都市の業者に大量発注が掛けられる事になるだろう。


 傍目には無機質で灰色なコンクリート製の豆腐建築ばかりであるが、外観なんてそれこそ幾らでも後から変更可能なのでまずは基本的な機能が優先されている。


 魔術でも通信には魔力によるチャンネルと魔力の波動が用いられる為、結果として塔などの高い施設も設営されており、外周の壁と合わせても確実に外観は意図したものではないにも関わらず軍事基地そのものであった。


「何か殺風景ですね。その内、壁とか塗りましょう」


「ふむ。木材が大量に手に入れば、屋根や壁を付けるのもいいかもしれん。ただ、やはり真っ先に上下水道が必要だな。もしもとなれば、魔導や魔術で専用の上下水道の施設を……」


 大きな施設のネックとなるのはやはり水回りの配管などでそこはまったくの手付かずであった。


 やる事は山積み。


 幾ら資材を用意しても人が来なければ話にならない事だけが真実困っているところだろう。


 ゴーレムは基本的に重いものを持つのが仕事であって、単純作業以外には向かない為、人間が使う場所は要塞建築の時と同じで人間がどうにかするしかない。


 そんな建造物の屋上には複数の飛び出したブロックが接合されており、ミニガンが複数台設置出来るようになっており、それを見たヒューリは何処か想像しながら頼もしげだ。


 自分が使うようになった重火器には愛着があるらしい。


「そう言えば、ベルさんはどうしたんですか? 周囲に見えないんですけど」


「ん? ベルは先程から地下だ」


「ああ、地下は30mくらい掘りましたけど、その下をまた掘ったりするんですか?」


「さぁな。ただ、地下施設の造成後にまだ精錬中だった土砂の中に興味を引かれるものがあったらしい」


「何か見つけたんでしょうか?」

「昼時になったら見に行ってみようか」

「はい」


 二人が自分の仕事をするべく。


 ゴーレムに指示出ししたり、マンションの一室へと戻っていく。


 女性陣が働いている造成区画の真下。


 完全にブロックで区画の地下を一つの箱のようにして築かれた広大なスペースの一角。


 未だブロックの製造に使えず、同時に危険だったり、価値がある金属粒子を保管しておく一角。


 部屋中に魔導による明かりが焚かれたペレットの山に座り込むようにしてベルは小さなルーペを片手に二つの鉱石を見詰めていた。


 片方は銀にも似ていたが、実際には銀ではない不可思議な色合いの金属。


 もう片方は少年が南部で金属の化け物と戦った時に採取した身体の一部だった。


「どっちも魔力親和性が高いのに崩れ易くて脆い……こっちはミスリルに近い性質があるのかな? こっちの黄色いのもコレが変質したような感じがするし……でも、あの化け物は凄く固かった」


 チラリと地下を掘って見つけた精錬済みの後のペレットの山を少年が見やる。


(バージニアさんから貰った本や学術書なんかを調べてもこの金属自体存在しない。この世界の元素表に無い……なのに埋まってる? いや、地質調査なんて殆どもうこの世界で行われてないと推測すると……?)


 今、少年が座る小山程のソレは確かに少年の手の中にある銀に似た金属に似ていた。


「それにこの耀き……あの蒼い騎士の人に……ぅ……」


 頭痛のする額をルーペを取り落としながらも押さえた少年は息を長くして落ち着いてから、二つとも懐のポケットに仕舞い込み。


 パタッと後方の山に背を投げ出した。


「……魔力を積層化後に固定する技術はまだ僕には無い。でも、この金属を使えたら……もしかしたら……幾つか試作してみないと」


 瞳を閉じてスゥスゥと眠り始めた少年を囲むように小山は連なっていた。


 昼時。


 その耀く小山に眠る少年を見付けて、ちょっとホクホク顔になった後、そっと背負って食堂に連れていったが、少年は缶詰で頬を突かれるまで目覚める事も無かった。

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