間章「黙示録」


 荒野の最中。

 新月の夜。

 風が吹く冷たい大地の上に一人、影が立っていた。


―――B-43の破壊信号……レギオン諸共か……ハンターでも侵入したか?


 閉ざされた闇。

 虚空にいきなり正方形の映像が映し出される。


―――分りました……最後の大隊が第四騎士としてその任務承ります。


 映像が途絶えた後。

 周囲にはゾンビ達が集まってきていた。

 しかし、その人影はまるでそれを意に介さず。


「こんなところで何してはりますの?」


 そんな声で振り返る。


「シュピナーゼ様こそ……このようなところで何をしておいでで?」


「面白そうな事してて、見てきたんよ」

「……閣下が心配なされます。どうかお戻り下さい」


「ようやく外に出られるようになったんやから、この世界をまだまだ見て回りたいわぁ」


「……この世界に見て回る処などございません。全ては悪徳に塗れ、全ては単なるまやかしに過ぎない……」


「いいやない。悪徳もまやかしも人の華なんやから」

「……五単位月の間にはお戻りを」

「お父様に心配掛けたりせんよ」


「お分かりになっているのなら構いません。では、私はこれで……任務がありますので」


 人影がゾンビ達の中を襲われる事もなく歩き出していく。

 それを見つめながら、少女は妖しくクスクスと微笑んだ。


「……汝、礎石にして世に病と獣を以て死を運ぶもの。青褪めた馬に跨りし、黄泉の担い手にして最後に為された頚城……ふふ、おもしろそうやなぁ。ああ、本当に……ふふふ……」


 零された呟きの直後。

 荒野に雷鳴が轟く。

 その蒼い稲妻が走り抜けた時。


 天空へと何者かが蹄の音を響かせ、駆け去っていく。


 それを追ってか。


 風が、地を這う屍がゆっくりとゆっくりとまるで誘蛾灯に群がる蠅の如く移動し始めていた。


 荒野は無人へと変貌していく。

 新たな変化を望む者達の胎動は既に始まっていたのだった。

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