第10話

 真奈美の弁当を食べ終え教室に帰り午後の授業を受けた。五時間目の国語はおなかがいっぱいになったせいか、睡魔に負けて寝ていた。目を覚ましたのは六時間目の始まる三分前だった。


「珍しいな、お前が寝るなんて」


 ボーとした意識の中、声のしたほうを見る。俺の席の横隣に肘をついてこちらを見る男子生徒がいた。黒縁眼鏡に少し長い黒髪、眼鏡越しに見える目は凛としている。彼の名前は海藤耀太ようた、二年になってからのお隣さんだ。


「ちょっと満腹で眠気に負けた」


「国語の時間のノートとってないだろう?」


「すまん」


 耀太が差し出してくれたノートを遠慮なく受け取る。彼のノートはきれいな文字で埋まっている。大切な所は蛍光ペンで示されている。


「放課後までには返す」


「了解」


 耀太は返事をすると次の授業の準備を始めた。俺も準備を済ませてノートを写し始めた。



 放課後、耀太に借りたノートを返して教室を後にする。今日はこの時間には真奈美が席の前に来るのだが、今日は用事があるのかすでに教室にはいなかった。


 一人廊下を歩き階段を下りる。昇降口に行くと菜穂がいつもの柱にすがっていた。


「菜穂どうした?」


 俺が声をかけると菜穂は「先輩」とこちらを振り向き駆け足でよって来た。


「先輩、突然ですがこれからお時間ありますか?」


「・・・あるけど」


「お話ししたいことがあるのですがいいですか?」


 少し強引に話を進める菜穂に圧倒される。普段の落ち着いた雰囲気の彼女からは焦りのようなものを感じる。


「わかった。でもどこで話す?」


 俺はそう言った話のできる場所をあまり知らなかったが、菜穂は少し悩んだ末に「あ!」と声を漏らす。


「学校の近くに喫茶店があるのでそこで話しましょう」


「靴を履き替えてきます」と菜穂は駆け足で下駄箱に向かった。


 俺も自分の下駄箱にから革靴を取り出す。昇降口の方から靴に履き替えた菜穂は「先輩早く」と手を振っている。周りにほかの生徒の姿はなかった。


 靴を履き、菜穂がいるところに歩いて向かう。そういえば菜穂に頼られるのは初めてだと思い出す。


「先輩こっちです」


 いつもは行かない家の反対の道を菜穂に先導され、俺たちは喫茶店に向かった。

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