第9話

 真奈美も弁当の蓋を開け食べ始める。しかしなぜか外側を向いて食べていて、弁当を隠しているような姿勢になっている。


「真奈美、なんで外向いて食べてるんだ?」


 真奈美は焦ったようにこちらを向き「なんでもない」と言った。だが少し気になり真奈美の持っている弁当を覗き混んだ。


 そこには少し焦げた目玉焼きや黒い一色の唐揚げ?唯一まともなのが白飯ぐらいだった。


「おまえ、その弁当・・・」


 真奈美は俺が覗き混んでいることに気づき弁当を隠す。


「これは・・・その・・・えっと・・・」


 真奈美の目が泳いでいる。誤魔化しの言葉を探しているのだろうがテンパって出てこないのだろう。


 俺は真奈美の弁当に箸を伸ばし唐揚げを取った。おはぎのようなは言い過ぎだが黒くなった唐揚げを口に入れる。


 横で真奈美が「あ!」と声を上げるが気にしない。焦げの苦さが強すぎて、本来の唐揚げの味がほとんどしない。カリカリと音を立てて噛み砕かれる唐揚げを真奈美は口を開けて見ている。


「こっちが本当のおまえの弁当か?」


「・・・はい」


 沈んだ声で真奈美は答える。多分だが俺がもらったのは真奈美のお母さんが作ったお手本だろう。真奈美も真似をしたがうまくいかず、見栄えと味の良いお母さんの弁当を渡したのだろう。


「なんで嘘ついた?」


 なんとなく察してからあえて真奈美の口から聞きたいと思い聞いてみる。


「だってこんな弁当、綾人に見せたくなかったもの」


「お前なぁ・・・」


 俺がまた真奈美の弁当に箸を伸ばす。今度は玉子焼き。真奈美は箸で運ばれる玉子焼きが俺の口に入るのを無言で見ている。


 玉子焼きは少し焦げた程度で味はさっきのとほとんど同じ。


「おいしくないでしょう、そんな焦げた玉子焼きなんて・・・」


 真奈美は沈んだ顔で言って来る。


「真奈美、弁当交換しようか」


「なんで?」


「そっちが真奈美の頑張って作ったんだろ?ならそっちをもらうよ」


「でも・・・」


 俺は少し強引に真奈美の弁当を取り上げ、真奈美にもらった弁当と交換した。


「ありがとう」


 かすかだったが真奈美の口からそう聞こえた。

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