決戦の日 先鋒:メガネちゃん

 高羽根駅前。19時にもなるとここは仕事帰り、学校帰りの人々でごった返し始める。様々な方向へ向かう足取りの中、ユウジは一点を見つめていた。


——佑紀乃は絶対来る、あいつは弱い人間だ。大事なところを押せば必ず折れる、俺にはまだあいつが必要なんだ、いなくなってもらっちゃ困るんだよ。


 人混みが一瞬止み、見通しが良くなった。

 その先、遠くに一人立つ人影が見えた。それをじっと見つめるユウジ。直後に緩む口元。


——ほーら、やっぱり。


 ユウジが全力で、そして満面の笑みで手を振った。

 佑紀乃は力なくそれを見つめると、視線を落とした。そしてとぼとぼと歩いた。


——ちょろいな、これで後しばらくは……


 ユウジがそんなことを考えているまさにその時だった。


「あれ? ゆきりんさん?」


 その声にユウジの足が止まった。ユウジと佑紀乃の間を遮るように、メガネちゃんが登場した。


——くそ、邪魔が入ったか。どうせボケっとしてるやつだ、何とかなるだろう。


 メガネちゃんは佑紀乃の肩に手を置く。


「ゆきりんさん、どこ行くんですかー? もしよかったらこれからわたしとご飯食べに行きません?」


 それからちらっと、ユウジを見て、ああ、と呟く。


「弟さんも一緒にいたんですねー、奇遇です。ちょっとお姉さんお借りしますねー」


 そう言って、メガネちゃんが佑紀乃の手を引っ張ろうとするのを、ぐっと抑える佑紀乃。一度だけちらっとユウジを見ては再びメガネちゃんを見つめる。


「あの、メガネちゃん、今日はちょっと用事があって」

「え、わたしよりも大事な用って何ですかー? それって……ショックです」

「ごめん。また今度必ず誘うから、ね? ちょっと今日は」


 心でニヤリとしてからユウジが追い打ちをかけた。


「ごめんね、丹下さん。そういうことだから。じゃ……」


 そう言ってユウジが佑紀乃の方へ足を一歩踏み出したその時だった。


「あっれー、ゆきりんじゃん? 何してんの、こんなところで」


  

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