待ち伏せしていた影
「おかえりー」
ユウジの茶色く揺れるセミロングの髪が、まるでニシキヘビのように佑紀乃の心にまとわりついた。佑紀乃は大きなため息をついた。
「へえー、さすが佑紀乃。綺麗にしてるじゃん」
ユウジは佑紀乃の部屋に入るなり、あたりを舐め回すように見つめた。
「あー、このバリ猫ちゃん、前から好きだったよな」
歩くたびに腰のチェーンがじゃらじゃらとうるさい。蔓延するタバコの匂いに佑紀乃は再び吐きそうになった。その横でユウジはトイレ、バスルームと乱暴に開けては中を見回す。
「あのさ、ユウジ……何度も言うようだけど」
突然、ユウジが振り返ると、佑紀乃を思いっきり抱きしめた。
「おれ、佑紀乃じゃないとだめなんだよ。な、頼む、俺を捨てないでくれよ……」
ユウジの服に染み付いた防虫剤の匂いが、佑紀乃に再びあの記憶を呼び覚ました。そして頭の中が灰色になる。
ゆっくりとユウジを体から離し、そのまま玄関に押しやった。
「ごめん。私にはもう無理、お願いだから帰って」
力なく追いやられるユウジ。
そのまま弱々しい笑みを浮かべた。
「そっか、わかった。いいよ、佑紀乃がそう言うなら。じゃあな」
寂しそうな、それでいて無理をして作った笑顔を見て、佑紀乃の胸が少し傷んだ。彼は独りでは生きられないのだ。それは佑紀乃にも痛いほど分かっている。でも、彼の分まで生きていく余裕なんて無い。ここでもし少しでも優しさを見せようものなら、そのままあっという間に骨の髄までしゃぶられる。
ユウジはそのままボロボロのスニーカーを履くと、玄関のドアを開けた。そして別れ際にこう言い放った。
「佑紀乃の友達って本当にいい人達だな、これからもお世話になると思うよ」
ガチャン。
ドアが閉まった。
あいつ今なんて言った? 佑紀乃は嫌な予感がして、まずメガネちゃんに電話をした。番号を押す手が少し震えた。そこでメガネちゃんから聞いた話を改めて自分の中でまとめる。それからカンナ、パーマンにも同様に電話をかけた。内容は皆一緒だった。
——あいつ。
佑紀乃は急いで職場の薬局に電話した。明日体調不良を理由に休みをもらうためだ。
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