ニコマートにはいなかった

 いつもこの時間であれば、不死川は講義が終わり次第すぐシフトに入り、22時まで働いているはずだった。しかし……


「いらっしゃいませ! ニコマートへようこそ!」


 迎えたのは頭が薄くなり始めたおじさんだった。

 ピーナッツ豆のような頭に赤ちゃんのような満面の笑顔。

 その営業スマイルにカンナが早速詰め寄る。


「あの、ちょっといいっすか?」

「はい、何でしょう?」

「ひよこ豆……じゃなかった不死川さん、いつもこの時間働いてる人なんすけど。最近見ないんです、何か知ってます?」


 おじさんは、あっ、という表情をしてから、気まずそうに口を結んだ。

 ネームプレートには「心と体を癒すパワースポット、ニコマート店長」と書いてあった。


「それがですね……」


 店長から話された言葉をカンナはしばらくぼーっと聞き流していた。

 そしてそれを聞き終えたタイミングで、何も言わずに走り出していた。今まで見せたことのない真剣な眼差しで。


「カンナちゃん、ちょっと!」


 佑紀乃もそれを追いかけて走り出した。

 カンナは駅方面へ向かっていた。それを必死で追いかける。


「ちょっと、カンナちゃん待ってって!」


 カンナは駅前の人々を、まるで全てチェックするかのように見て回った。

 必死に顔を見て、目的の人物かどうかを確認して行った。明らかに動揺している。

 その後を必死でしがみつく佑紀乃。走りながらも先ほどの店長の言葉を思い出していた。


『……それがですね、ちょっと変なんですよ。何の前触れもなく突然『お世話になりました』みたいな手紙残していなくなっちゃって。うち、不死川さんのシフトでもっていたようなもんだから困っちゃってね。それ以来連絡も取れていないんですよ』


——そりゃカンナちゃんが焦るのも分かるわ。でも……


 佑紀乃はカンナの肩を強く引き戻した。


「何だよ! 邪魔しないで!」

「カンナちゃん、ねえ、落ち着いて!」


 佑紀乃はカンナの顔をこちらに向かせた。そしてその表情を覗き込む。

 カンナはいつもの明るい元気がすっかり失われていた。


「ひよこ豆ちゃんは……いつも命懸けて生きてんだよ。あの時だっていつ死んでもいいって思ってた、そんな人なんだよ、あの人は。だからひょっとしたら本当に……あたし、そんなのイヤだから! お願い、邪魔しないで」

「落ち着いて、カンナちゃん。分かる、分かるからほら——」


 佑紀乃のすぐ後ろにはメガネちゃん、少し遅れて面倒臭そうなパーマンがいた。


「一人より手分けして捜そ?」


 カンナはようやく冷静さを取り戻し始めた。


「……そだね、ありがとみんな。あたしは駅前探してみる」

「うん、私はニコマート付近のエリアを見てみる」

「わたしは駅ビル内一通り見てみます」


 3人は力強く頷いた。

 そして見る、パーマンを。


「え? 俺も探すの? ちょっと俺、腹減って来たんだけど……」


 3人は冷たい視線をぶつけた。


「はいはい、わかりましたよ。『ぼんちゃん』とか兄さんが行きそうな店当たってみるよ」


 しぶしぶパーマンも「ぼんちゃん」方面へ向かった。

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