作:ひよこ豆

 佑紀乃は不死川の書いたとされる文章を目に入れてから、背中に汗がどっと吹き出した。

 パーマンもさりげなく後ろから付いて来た。そしてその文字を目で追う。


——こ、これは……もしかして?


 内容はこうだった。


「ふわふわルルちゃん、もうそんなことしてると魔法でルルルルーですよ」

「はーい、ネル様。もう悪いことはしませんから、魔法だけはダメダメですー」

「キャハハハッ、でもおしおきはおしおきですよ〜。行きま〜す、『魔法の力でルッコリラ〜』」

「あーれー、お花さんにされたのです〜」


——異世界、ファンタジー。しかもコアなジャンルを攻めてきた。青年期、施設に入っていたひよこ兄さんの心の救いは、魔法の世界だったのか……。


「……どう、ですか?」


 不死川の声に、佑紀乃は喉がつまった。


「あ、はい。ファンタジー系って中々難しいですよね、世界観の構築というか……」

「そうなんです!」


 突然身を乗り出した不死川に、思わずおののく佑紀乃。


「ファンタジーって現実ではないにもかかわらず、現実に通ずるものが無くてはならない。かつその架空の世界観は一貫していなければならない、今まさにそこに悩んでいます」


 佑紀乃は、は、はい、と答えるのがやっとだった。

 気づくとパーマンは、素早く自分の席に逃げていた。


「不死川さん、なかなかいいですね」


 先生がニコニコしながら近づいて来た。


「ワンポイントアドバイスです、名前の設定です。字面や音が似ている名前は避けましょう。例えば萩原と荻原、翔太と陽太。不死川さんの場合、『ルル』と『ネル』が出て来ますね、できればどちらかを思い切って『シャノン』といった音の響きと文字数を変えることによって、二人の登場人物が区別しやすいネーミングとなります。その方が読者は混乱しにくいですよ」

「……ありがとうございます」


——あぁ、結構みんな頑張ってるな。私もせっかくだから何か書いてみよっかな。って言っても昔っから文章書くの大の苦手だったしな……。


 その日の講義はそのまま終了し、生徒は帰り始めた。

 その最後、眼鏡をしていないメガネちゃんが佑紀乃を引き止めた。


「……あの、ゆきりんさん。相談があるんですが」

「へ?」

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