今を溶かそう

HaやCa

第1話

僕が彼女に出会ったのは、一部の偶然に過ぎない。


小説のように、彼女は難病を患ってはいないし、特別変わった特性も持ってないけ


ど、僕にとっては大切なひとりの天使だ。


 みんなが抱える個人の問題、それは誰にだってあると思う。


 勉強が苦手だとか、カラオケで高得点をとれないだとか。


 けど、そんなことは些末なことでしかない。


 僕が望むのは、彼女との間に命を繋ぐこと。


 生まれてくる子には、なんと名付けよう。 


 男の子でも女の子でも、可愛い名前がいいな。


「わたしはね、きみに名付けを任せようと思うの」


「どうして?」


「だってきみは、辛いことも楽しいこともちゃんと教えてくれるから」


「まかせて。きっと目がきらきらした子にするよ。だから、今日はゆっくりさせて


ほしい」


「うん」


 彼女の目尻には、悲しいくらいの涙がたまっている。


 僕が指でそっとぬぐうと、彼女は砕けるように笑った。


「光れ」


 心で願う。


 あの子の未来も、僕が愛している彼女の未来も、全部。


 青白く溶ける今を、未来永劫守っていけるだろうか。 


 嘘みたいな赤とんぼの群れのなかを走る、我が子の姿を思い描く。


 僕が遠吠えして、気がおかしくなっても、どうか手を繋いでいてほしい。


「ごめんなさい。それしか言えないや」


「だいじょうぶだよ。みんながんばったよ。わたしもきみも、あのこも」


 溶けるいまを、ほんのりロウソクが照らす。

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今を溶かそう HaやCa @aiueoaiueo0098

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