アークの箱庭
小町 甚
箱庭の世界
第1話 発端
上半身を反らした瞬間──視線の先を剣閃が走る。その反らした半身を戻そうとするも新たな剣先が振り下ろされているところだった。死ぬとか、何とか思う前に反射的に転がり、起き上がった時には冷や汗が背中を濡らした。
もう、逃げ出したい。止めたい、そんな事ばかり考えてしまう。こんなことになるなら、あの時、あんな変な所にいた時点で止めとくべきだった。おかしいと、疑うべきだった。
──だが、全ては後の祭り。
ガチッ!
攻めようにも相手は二体。剣戟を受ける度、焦りが膨れ上がる。
(キツイな……)
──漂い始める、死の香り。もちろん嗅いだ事など無い。だが俺を取り巻いているのはそんな香りだ──。
(っ!──)
そう思った次の瞬間には大きな鎌が振り下ろされているところだった。何てタイミングで瞬きをしてしまったのだろう。右手は動かず、身体も硬直している。
ここまでか──。
全身の力が抜けていき、剣を握っているはずのその手が全てを手放そうとしている──死の間際では全てが、ゆっくり──ゆっくり──進んでいく。そして、大きな鎌が迫る……。
『仕方ありませんね。サポートを起動します』
──そこで俺の意識は途切れた。
◆
全ての始まりの時まで
バッと肺に一気に空気が流れ込み、むせ返りながら目が覚めた──。
ゴホッゴホッと咳が出る。息苦しさの中に混乱が混じり、今度はスー、スーと、ゆっくり肺に空気を送り込んだ。視線が右へ、左へと流れ、記憶の糸を探るが、何も繋がるけどものはない。一体、俺はいつからここにいたのだろう──ここは、湿気った匂いが充満する……丸太小屋の中 。
「勘弁してくれ……」
……。
そう、発した所で、聞き覚えの無い声に続く言葉はなかった。目の前にはテーブル、そしてその上には石板が置いてある。何だこれは? そう思った瞬間──。
『こ こ は』
ゆらゆらと言葉が脳裏に浮かぶ。
「──!」
『ア ー ク の 箱 庭』
そう文字が続けざまに浮かび、思わず手を伸ばすも──。
「えっ……?」
石版はキラキラと光の粒となり伸ばした手が空を切る──。
「……」
目が覚めてからわずか十秒、理解が追いつかない。そもそも一体、ここは何なのだろう……今居るのはいつ崩れてもおかしくない丸太小屋──そう思った瞬間、ギィと足元で木が軋む音がした。だが、それ以上に気がかりなのは俺の格好だ。黒を基調とした、質のいいものなのだが──。
「──好みじゃ……ないな」
『誰が』こんなものを俺に着せたのか。一度気に留めてしまうと、どうも落ち着かなくなる。そもそも『アークの箱庭』って何だ。聞いた事も覚えもない。これを仕組んだのは相当な暇人か俺の考えが及ばない宇宙人みたいなやつなんだろう。
今、箱庭の中にいるって事は……俺は閉じ込められている、そう考えるべきだろう。そうなると、脱出する方法を探さないといけないのか……。
(本当にそんな方法があるのか……? タイムリミットは? 他に誰かいないのか? 助けは?)
「はぁ……」
「助けなんて来るはずもないだろ……」
辺りを見回し一息つく。ここは崩れそうなカビ臭い丸太小屋……出来るだけ早く出たい。かと言って行き先があるわけでもない。手元に使えそうな物は何も──。
「ん?」
上着のポケットの辺りに手を当てると何か入っている……宝石が付いたペンダントの様な物だった。
『エネルギー残量:■□□□□□□□□□』
『警告! 警告! エネルギー残量が僅かです。速やかにエネルギーの補給を行ってください』
「いきなり警告とは……困ったな……」
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