湖国ナミダ物語

@white35

第1話

あの夏、僕は友人のヒロと花火大会に行った。

県外の大学に入学して初めての夏だった。

大学で友達になったヒロはこの辺の出身だという。

「花火大会気になるなら案内してやるよ。花火が町の湖に映っていい眺めだぜ」

「それは有り難いが彼女と行かなくていいのか。まさか彼女合わせて三人とか気まずいからやめてくれよな」

「そんなわけあるかい。まあ細かいことは気にするな」

本当によかったのだろうか。やつの彼女にはあったことはないが。

「おーい、こっちだ」

ヒロがもう駅に着いていて手を振っている。僕も手を上げる。


「すごい人だな」

花火大会の最寄り駅についてあまりの人に僕は辟易する。

「迷子になるなよ」

ニヤリと笑いヒロは人混みをするすると抜けていく。

ヒロを見失うまいと必死で人混みをかきわける。気づけば人混みからはだいぶ離れていた。

そこから民家やら人気のない道、田んぼ、あぜ道を抜けてなぜか山の方へ向かうヒロ。

「おい、山にいくのか?」

「この上からだとよく見えるんだ」

ニヤリと言うヒロ。

大丈夫かよと思いながらもついていく。

確かに高いところからみると花火はきれいなのかもしれない。

「彼女つれてこなくてよかったな」

「?」

怪訝そうに振り返るヒロ。

「こんな暑くて暗い山道、女はイヤだろ」

ヒロはぺろっと舌をだしてさっさと登山を続ける。

「ま、まて」

僕は息を弾ませながらやつを追う。

どれくらい山登りしただろう。

やっと視界が開けてきた。

「おお」

山の中腹くらいだろうか。眺めはかなりいい。

「いいだろう、ここ。県下最大の湖も見下ろせる。そして、もう少し先にいくとだな」

ヒロが歩き出す。

僕も続くとそこには小さな山池があった。

「わあ、不思議だな。こんなところに池があるのか」

「花火はこの行けにも映り込むんだぜ」

ヒロは池を見つめて言う。

「ありがとうヒロ!ここですごい眺めがおがめそうだ」

「へへへ」

もうすぐ花火の時間だ。


花火が夜空に咲き始めた。

赤、アオ、緑、むらさき、黄色、たくさんの色の花が夜空に咲いていく。

それが山の麓の湖にも映り込む。

そして僕たちの正面の小さな池にも映り込む。池が小さいから花火は池の水面全てを埋めつくし映り込み、せわしなく多彩に発光している。

空の花火、湖の花火、池の花火。

幻想的な万華鏡の世界に迷いこんだような感覚になった。

特に池の花火からは不思議な魅力を感じて目が離せない。


「コウちゃーん」

ふいに中年くらいの男性の声が聞こえる。

他にもこの場所に観覧にきた人がいたのか。

「コウちゃんどこーーー?」

「コウちゃん、コウちゃん、、、」

コウちゃん、どんだけ見つからないんだ。

「あの、ぼくもコウちゃん探しましょうか」

僕も一緒にコウちゃんを探そうと辺りをみて気づく。

コウちゃんを探しているらしき人がいない。

僕とヒロしかいない。

「コウちゃんーーー」

声は相変わらず聴こえる。どこからだ。

「なあヒロ」

ヒロの方をみると池を凝視して動かない。

ふと、僕も池をみると池に花火でないものが映り込んでいるのがみえる。

これは、人だ。

中年か壮年にさしかかるくらいの男性が何かを探して走り回っているように見える様が池にのみ映り込んでいる。

「どういうことだ」

ハナビが池の水面を照らす度にその姿がみえる。ハナビの魔法で水面に映されるこの悲しい幻影はなんなのだろうか。

斜め先には僕の呼びかけにも応じずに池を見続けるヒロ。大丈夫なのか。もしかしてこいつ池に吸い取られるんじゃ。

「おいヒロもう戻ろう」

ヒロの腕をつかみ横顔をみた瞬間、

僕はだいたい把握した。

池に映るおじさんと、池を凝視するヒロ。


しばしの逡巡の後、再びヒロの手を握り彼に語りかける。

「帰ろう、コウちゃん」

花火はもう終わる。月の出番だ。

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