エッセイ

@rui_cat

いらない宝物

友情の印に!と彼女が差し出したのは、リスだかなんだかのストラップだ。茶色い服を着て、緑と赤の派手な帽子をかぶったその動物がただの動物なのか何かのキャラクターなのかは分からなかった。

誰かがショップを出入りするたびに、小さな雨音が耳に届く。私は首を傾けてじぃと彼女とストラップを見つめた。果たして、私と彼女の間に印すほどの友情が存在しているのか、と彼女が聞けば泣き出すようなことを平気で考えていた。

 そもそも彼女と私が一緒に園内を回っていたのは、「一緒に回ろうね」なんて約束があったからではない。私の部活仲間と同じグループに属していた彼女が遠足の前日にそのメンバーと喧嘩をしたことが原因だ。幸い、私はお得意の人見知りが出ない程度には彼女に慣れていたので彼女と園内を回ることを了承した。彼女が絶叫マシンが好きだと言ったのも大きい。当初一緒に回る予定だった友人たちはことごとく絶叫マシンを苦手としていて、私はジェットコースターに乗れないことを残念に思っていたのだ。

 “友達の友達”それが、私の彼女への認識だった。

 遠足の翌日が私の誕生日だと知った彼女がプレゼントとして選んだのが、冒頭のストラップである。彼女はお揃いにしよう、と笑った。もしこれがプレゼントでなかったら私は断っていただろう。別段感じてもいない友情の為に三百円もするストラップを買うつもりはない。けれど同級生の好意を無駄にするほど冷めていたわけでもなく、私は黙ってストラップを受け取った。つん、ととんがった動物の口元が少しだけ可愛く見えた。

 お揃いのストラップを携帯電話にぶら下げるようになってから、私と彼女の距離はぐんと縮まった。今まで気づかなかったが、私たちは随分と趣味が似ていたらしい。今まで話す相手のいなかったマイナーなコミックの話をするのはとても楽しかった。

 彼女に対する違和感が生まれたのは、私の中の彼女が友達と親友の境界線にやってきた頃だった。彼女は何かと“一緒”ということにこだわった。昼食、トイレ、教室移動、そんな些細な行動まで一緒にしたがった。彼女は彼女が嫌いなキャラクタ―を私が好きだと言っただけで拗ねる。点滅する信号を急いで渡る彼女を眺めながら足を止めた時、冷たいと言って泣き出した彼女には焦るというよりぞっとした。「私の事嫌いなの?」とまで聞かれた時には、こんな事でよくそこまで考えるな、と感心したほどだ。他人に合わせることが苦手な私が彼女から距離を置くようになったのは当然のことだと思う。中学を卒業してから今まで、私は彼女と一度も連絡を交わしていない。

 あの時の携帯電話は、もうiPhoneに変わっている。年末の大掃除のたびにストラップは埃まるけで顔を出す。私は毎回ストラップとゴミ箱を見比べながら、ぼろぼろのそれを捨てることが出来ずにいる。

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