にぎやかなお祝い

 その日の夕方、レイナはマサじいさんの様子を見るために再び小屋を訪れた。

「レイナの雑炊を食べて眠ってたら、だいぶよくなったよ」

 マサじいさんはベッドの上に起き上がっていた。咳はたまに出るぐらいになったようだ。


「着替えは? パジャマを換えたほうがよくない?」

「ありがとう。パジャマはトムが洗ってくれたから、大丈夫だよ。ここの子供たちは、みんなよく気が利くいい子だ」


 夕飯は隣の小屋の住人が持って来てくれるらしい。レイナはお茶を入れてあげた。

「ああ、ありがとう。今夜は曇りだから、残念だねえ」と言った。

 タクマも同じようなことを言っていたな、とレイナは首を傾げた。

 ――なんで、今日はみんな、そんなことを言うんだろう?


 冬は暗くなるのが早い。ゴミ捨て場には街灯がないので、真っ暗になる前に帰ろうと、レイナは小屋に急いだ。


「ただいまあ」

 小屋の扉を開けると、「お誕生日おめでとう、レイナ!」と、声が響き渡った。見ると、ミハルとタクマ、アミにトム、ジンがちゃぶ台を囲んで座っていた。


「えっ、今日って……」

 レイナはすぐには事態が呑み込めず、何度もまばたきした。

「私の誕生日だっけ」

「そうよ。忘れてたみたいだけど」

 ミハルはフフッと笑った。


「えー、そうかあ。どうして忘れてたんだろ」

「ラジオが壊れてるからじゃない。今日が何月何日か、ラジオを聞かないと分からないもんね」

「そっか」

 レイナは手招きされて、みんなの輪に加わる。


「さあ、ご馳走を食べましょ。トムが食堂で食材を調達してきてくれたの」

 食卓には鶏のから揚げとポテトサラダ、オムライスとオレンジジュースが乗っている。レイナは歓声を上げた。


「これ、これ、私がいない間に作ってくれたの?」

「そうよ。見つからないように作るの、大変だったんだから」

 ミハルは茶目っ気たっぷりの表情で言う。


「デザートにはロールケーキもあるんだよ。食堂のおばさんに、レイナの誕生日だって言ったら、タダでくれたんだ」

 トムは誇らしげに言う。


 食堂とは、ゴミ捨て場の作業員たちが休憩するプレハブにある食堂のことだ。


 そこで料理を作っているおばさんとおじさんの夫婦は、レイナたちに対して優しい。余った料理や食材を、よく分けてくれるし、古着をどこかで調達してきてくれることもある。

 二人には子供がいないので、レイナたちを自分の子供のように思ってくれてるんじゃないかと、マサじいさんは話していた。


「いっただきまーす」

 レイナはから揚げにかぶりつく。たちまち、ジューシーな肉汁が口中に広がった。

「ん~、おいしいっ。ママのから揚げ、最高!」

「ミハルさんが揚げたてを食べてもらわなきゃって言うから、オレがレイナのことを見張ってたんだよ」

 トムもから揚げを頬張りながら言う。


「見張ってた?」

「レイナが後片付けをしてたときに、もうすぐ帰って来るよって言いに来たんだ」

「えー、近くにいたなんて、全然気づかなかったよ」

「こいつ、すっかりスパイになりきって、ターゲットはお茶を入れているところ、食器を洗ってるところって、何度も報告しに来るんだよ。うっとおしかったぞ?」

 ジンが呆れたように言う。レイナはその様子を想像して、笑い声をあげた。


 ふと、「そっか、今夜は曇り空って言ってたのは」とつぶやいた。

「そう。今晩は流れ星が見えないねってこと」

 タクマがポテトサラダを食べながら言う。


 アミがレイナの腕を引っ張り、天井を指差す。見上げると、ブリキでつくった星がいくつも貼りつけてあった。

「流れ星が見えなくても、いつでも星があるよって、アミは言いたいのよね」

 ミハルが言うと、アミは嬉しそうに何度もうなずく。


「すごーい、これ、作ってくれたの?」

「ジンおじさんに教わりながら、トムとアミとで作ってくれたんだって」

「ブリキをハサミで切るのは、大変だったけどな」

「ホラ、あれがオレがつくった星だよ」

「これ、蓄光塗料が塗ってあるのよ。暗くなったら光るんだって」

「えー、すごい、すごい!」


「オレはプレゼントってほどじゃないけど……ラジオを直した」

 ジンは頭をかいた。

「女の子には、何をプレゼントしたらいいのか、さっぱり分からん」

「ラジオを直してくれただけで嬉しいよお」

「ジン、オレの自転車も直してくれていいよ」

「なんでお前は上から目線なんだよ」

 ジンはトムの頭を小突いた。


 みんなで天井を見上げながら、にぎやかに語り合う。

 ――ああ、幸せだ。みんな、大好き。

 レイナの心は満たされていた。


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