富嶽かく語りき
「まったく頭に釘でも打ち込まれたのかと思いましたよ」
左右には中等部の生徒が二人、向かいの席には高等部の生徒が三人。
片山富嶽は集まった友人たちの前でこう語った。
──回想──
メキッと頭蓋が軋む音をたてた。
(──何事っ⁉)
突然襲いかかってきた衝撃に富嶽は夢を破られた。
まずは状況確認。自分は愚かしくも同級生に挑発されて、度胸試しの山ごもり中、修行の疲れでテントも張らずに枯葉の上に仰向けになり寝てしまった。
獣の匂いと顔に滴る唾液。頭部を押さえつける爪。
(こいつが噂の熊か)
数日前から琵琶湖の対岸の村を荒らしていた大熊が、麓の町にも出没、運悪く遭遇した農夫に重症を負わせ、周辺を恐慌状態に陥れていたのだ。
事情はわかった。後は現実への対処のみ。
相手もあろうに自分を餌と見なすとは、熊もよくよく腹をすかせているのであろうが、黙って食われてやる法はない。
(食ってみるがいいさ。食えるものならな)
万力のごとき牙の圧力が緩んだ瞬間、富嶽は立ち上がった。
大熊を頭にかぶりつかせたまま、ゆっくりと。
「でええええーい!」
黒い巨体が宙を飛び、密生した藪の中へ墜落した。
──回想──
「ああ、ちょっと待って」
口をはさんだのは、向かいの席のメロンみたいな頭の男子、富嶽と同じく羅刹女伝道学院二年の埜口半六である。
見る角度によって濃淡が変わる緑の頭髪はなんと自前、軽薄なようで一途な面もある知恵者で、富嶽も彼のことは好きだ。
「富嶽さんが小学生の頃の話だよね」
「いかにも」
「そのとき何才?」
「十二歳でした」
何でもないことのように
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