第15話 エピローグ
「あれからちょうど1年だな」
深山真一は窓の外の景色に視線を向けながら物思いにふけっていた。
あれからってのは、ここ長野県大町市にあった木崎
記録によれば、上月源一郎とキミカの老夫婦がボートに乗っている最中に湖の底にある古墳の水没に巻き込まれて行方不明。いまだに死体は上がっていないという。
ただそれだけの話だ。
俺の記憶とはかなり違うんだがな……。
俺は木崎湖のほとりのうどん屋で、小石のうどん大盛り3杯目を食べ始めながらそんなことを思い出していた。1年前の昨日、俺は確かに上月のじいさんにカレーをごちそうになっている。
俺は忘れない。
たとえ誰が忘れようと――俺は忘れない、絶対に。
俺には昔から、物事の本質を何となく見抜く力があるらしい。この事件もそうだ、と俺の中のなにかがくすぶり叫んでいる。この事件、俺の記憶は二つある。一つは記録と同じくただの古墳の水没。そしてもう一つは――信じがたいことだが、俺は鬼を退治したらしい。
それも
あり得ないって?
残念だが、世の中はあり得ない事柄で出来ているものなのさ。
まぁ、これは俺の師匠の言葉だけどな。
まだまだ、世の中楽しめると思えば――。
――カランカラン♪
店に客が来たことを知らせる鐘が鳴った。
元気に駆け込んでくるのは今年13歳になったはずの少女と真っ白な肥満猫だ。
「こんにちわ~、おやきをくださいな!」
「お嬢ちゃん、どのおやきにするかね?」
「えーっとね、お供えにするんだけど……このかぼちゃと野沢菜を二つずつ包んでください! あとね大根と小豆を一つずつ!」
「はい、じゃあこれね。野沢菜は一つおまけで包んどいたから」
「ありがと~♪ 良かったね、
少女は一緒に入ってきた白猫を探している。
そうか、この白猫の名前は王二郎さん、か。
その
こいつ絶対にさっき俺が思った『肥満猫』ってフレーズの仕返しのつもりなんだろう。はぁ、お前だけはちゃんと俺のことを覚えているようだな。
俺は頭に猫をのせたまま、この日4杯目の小石のうどんという名のカレーうどん大盛りを注文した。
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