願わくば、貴方の心の拠り所に

芥山幸子

願い

幼い頃の僕には、この街にもそんな人がいる気がしていた。

地下鉄構内のじんわりとした熱気も、電車内の寒いくらいの冷房も、アスファルトの焼け焦げる匂いも。好きだって人が、この街にも。

でも、違った。僕が確かめたいのはそんなことじゃない。どれだけの人が、生まれ育った故郷の懐かしみに浸ることができているのだろうと、考えていたのだ。今も、思い出すいとまもないのではないかと云うほど、東京の大人達は忙しなく働いている。自分の心を殺して、今日も生きている。

そうしなければならない。たとえ自分の声を大にしたって、掻き消される喧騒だ。思ったことすら何でも言ってしまえばいいとは限らない。昔から云われるが、やっぱり沈黙は金であった。世の中とは、無情なものであろう。

僕が田舎に帰る時、決まって思うことがある。その景色は、時に人の心に侵入し、溶かしていくのだ。疲労を、塗り固められた表情を、黒い感情を。

君だって、貴方だって。帰っても、甘えても、いいのではないだろうか。それともいつか、ふとこの場所のことも思い出して、ああ、田舎っていいな。なんて、涙してくれないだろうかと、願わずにはいられないのだ。

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願わくば、貴方の心の拠り所に 芥山幸子 @pecori_

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