7 原稿用紙3枚

 フローリングの床のこげ茶色が、ワックスに光っている。台所のようで、テーブルに老夫婦が向かい合って座っている。

 女性は痩せていてめがねをかけている。男性はふっくらとしていて鼻筋が通り、目もとの彫りが深い。どことなく養父に似ていることが、ますますわたしを混乱させる。

 この人たちは誰だ? どうしてわたしはここに来た?

「お前誰や」

 背の高い男性。わたしより少し年上くらい。三十歳前後か。眉が濃いところ、鼻が小さいこと、さらには丸い目が……わたしと同じだ!

「お父さん……?」

 とすると、この老夫婦は父方の祖父母?

「スミコか……?」

 その人は丸い目をさらに丸くする。

 この人はこんな若くに自ら命を絶ったのか!

「……はい」

 戸惑っているわたしは、敬語で話すことを無意識に選んでいた。実父とは言え初対面の年上の男性にほかならないのだから。

「お前、死んだんか?」

「いえうつで……」

「お前みたいなもん、はよ死んでもたらええんや。

 オレは尚美(なおみ)のことは忘れたんや。お前のことはなおさらや。お前や尚美がおらんかったら、そのあとの嫁とは長つづきできて、オレが自殺することもなかったし、あいつらがあんなに早くにこっちへ来ることもなかったんや。

 全部お前らのせいや。尚美にもそない言うとけ!」

 実父は、つばを飛ばして罵ると、沸騰したやかんから出る湯気が、外気に触れてだんだんと薄くなっていくように、姿を消してしまった。

「わたしらのせいってどういう意味よ! なんであんたは自殺したんよぉ!」

 涙が出て来る……答えて欲しかった。

「逃げるなんて卑怯やわ……みんなズルいわ……」

 目をあける。

 もとどおりの自分の部屋がひろがっている。

 ベッドに潜り、泣いた。

 生まれてきたことを、後悔した。

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