魔王蹂躙⑤

腰まで届くだろう長く荒々しい紅い髪を逆立たせた巨大な男。

  黒尽くめの衣服の上からでも、鍛え抜かれた肉体が良く判る。

  

 そんな怒らせたらやばそうな化物というか、魔王か何かかと思われる

  それが、怒髪天を突き、無差別に街を破壊し続けていた。


 勿論、街中の冒険者達が徹底抗戦を続けているが、

  山火事相手に水鉄砲で消火に励んでいるようにしか見えない。


  「何処だ…出て来い、

    出て来い!!クソがぁぁぁぁああっ!!!」


 当のご本人は意に介さず、ただ破壊してまわっている。


 ちらりとマコトを見ようとしたが、隣に居た筈の妹が居ない。

  それに、ミステアもいないのだが…。


  「アンタが肉魔王ね。口ばっかりで城に引き篭もっているとか」


  「ぶは…肉魔王だってさ、肉父上」


 わー。あの二人、あれだけやばそうなヤツの目の前まで飛んでいって

  更に煽ってやがる。


  「貴様かぁ!!この…この紙を残して…!!

    イクス・メテオールなぞぶちかましたクソは!!!!」

  「…イクス・ピラー」


 問答無用で彼の足元から尖った岩が突き出す。


  「ぐほっ!? っっっぎゃぁぁあああ!!!」


 よりによってお尻にブスリと突き刺さった。


  「きっききききき…貴様!!こんなこ――」

  「イクス・シャイン」


 怒り狂う彼の眼前で、光り輝く球体が、

  目を焼く程の閃光を伴い炸裂する。


  「とアーッ!!!眼がっ!! 目がぁぁぁあああっ!!!」


 …。容赦ねぇ。立て続けに魔術で彼を痛めつけている。

   主に精神的に来るモノばかりなきがするが。


 それをただ呆然と見ている俺に、一枚の紙切れがヒラリと落ちてきた。


  ・『ラクラスの街より口だけ魔王にプレゼント♪』


 …。いや、普通に王様なんだろうから、居城に居ても問題無いだろう。

   そう思いつつ、必死に抗議する魔王と、立て続けに魔術を連発する妹。

   それらを見て、空中で笑い転げているミステアを呆然と見ていた。


  「…判った! 赦す! 赦すからもうやめ、やめてくださ―――」

  「氷の聖女に抱かれ…眠れ――イクス・クリスタシア」


 マコトの手から放たれたのは、純粋な魔力の塊。

  それらが渦を巻きつつ、身動きとれなくなった魔王へと

  ゆっくりと近づいていき、その巨大な体をじわじわと蝕み、氷晶化させていく。


  「ぐ…ぐあぁぁぁぁぁあっ…」


 完全に氷晶の塊となった魔王を、トドメを刺したのは他の誰でもない。

  彼を父と呼んだミステアだった。

 先程の岩の魔術で似たようなモノで氷晶を砕き散らせる。


 この世界のラスボス的ソレが、妹に蹂躙された挙句、

  実の娘さんに殺されたしまったんだが…。

その直後、とても気が合うのか判らないが、二人がそのまま消えてしまう。

 おそらく転移を使ったのだろうが、さてここで一つ問題が起きた。


 取り残された俺、どうすればいいのだろうか…と。

  


 


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