ツキナギ代筆
齋藤瑞穂
Prefece
prologue 森の中のログハウス
よく晴れた、とある平日の昼下がりのこと――。
リリリリリリリン。リリリリリリリン。カチャッ。
「お電話ありがとうございます、ツキナギ代筆です」
決して大きくはないが、太陽の光に満ちているログハウスに響くのは、はきはきとしたよく通る声。その声の主の、天使の輪を浮かべている髪はきっちりと2つに分けられ、几帳面に三つ編みされている。
「――少々そちらでお待ちください。担当の者がお迎えに参ります。……とは言っても、ツキナギ代筆にはひとりしかいないのでお迎えに上がるのはわたくし、
ログハウスの窓に沿って平行に置かれているバーのカウンターのような長机には黒電話。その机から見て、窓の反対側に背もたれのない脚の長い椅子が2つ。奥側の椅子に腰掛けて履き慣れたローファーをプラプラさせている少女――彼女が月凪だ。
「――はい。失礼します。それではまた」
カチャッ。
すとん、と跳ぶようにして椅子から降り、ひとつしかないドアを開ける。しわのない紺色のセーラー服のスカートはふわりと広がって、彼女は扉の向こうに消えた。
きっと、長机の真ん中で日向ぼっこをする黒電話は知らない。大人と子どもの間をさまよい続ける彼女のことを。
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