第279話
定期運航の馬車だったが、乗客はリゼたち三人とは別に三人の合計六人だった。
バビロニアでは面識のない冒険者風の三人だが、護衛でないことだけは分かっていた。
定期運航の馬車数は、かなり少ないこともあるが、護衛の冒険者がいない。
基本的に、バビロニアから首都ラバンに向かう馬車を利用する多くが、冒険者だという理由からだ。
多くの冒険者たちは自ら商人と交渉して、護衛をしながらラバンに向かうほうが効率がいい。
必然的に商人と交渉が出来なかった冒険者が、定期運航も馬車を利用する。
他の都市からバビロニアを訪れる観光客たちの多くは、危険も多いからツアーに参加することが一般的だった。
契約している馬車や宿を利用するため、自分で手続きをする必要が無いため、安全安心を購入している。
極稀に、個人的な理由で定期運航の馬車を利用して、バビロニアを訪れようとする冒険者以外の者もいるが、同乗者に冒険者がいることは常識だった。
「では、行きますね」
馬車が動き出す。
「待ってください‼」
馬車の前に女性が突然飛び出す。
焦りながら手綱を引き寄せる運転手。
「この馬車は首都ラバン行きですか?」
「はい、そうですが?」
「まだ、空きはありますですしょうか?」
「はい、乗車可能ですが……」
運転手は女性の身なりを気にしていた。
かなりの薄着に体を覆うような布。
足元の靴は不釣り合いなほど豪華に輝いていた。
不審に思っていると、女性の後を追ってきたのか、別の女性が走ってくるのが見えた。
「あの人は知り合いかい?」
驚くように振り返ると、追って来ている人物が分かったのか、焦ったように答える。
「いいえ、知りません。すぐに乗りたいですんですが!」
切羽詰まった様子で話す女性に訳ありだと、運転手が察した。
「乗車賃はあるのかい?」
「はい。これで足りますか?」
女性は金貨一枚を差し出す。
「……とりあえず、乗って下さい。お代は休憩した時にいただきます」
「有難う御座います」
女性は礼をいうと後ろに回って馬車に乗りこむと、冒険者風の一人が立ち上がると、女性の驚く顔に我に返ったのか頭を下げて謝罪する。
奥に座っていたリゼたちと目が合うと、軽く頭を下げて無言で、馬車の真ん中辺りに座る。
「すみませんね。では行きますね」
仕切り直すように運転手は早口で話す。
走ってくる人物を振り払うかのように、急発進して馬車を走らせた。
後ろ髪を引かれる思いで、バビロニアの町を目に焼き付けると、見送りに来てくれていたリャンリーと目が合う。
言葉を交わさなかったが、優しく手を振ってくれるだけで気持ちは十分に伝わる。
ただ、自分を大きく成長させてくれたことには間違いない。
それに二つ名の“宵姫”。
リャンリーとの約束を守るため、名を轟かせられるような冒険者になろうと誓う。
メインクエストが現れた。
クエスト内容『七人でラパンに辿り着くこと。期限:ラバン到着まで』、報酬『報酬(魅力:一増加、力:二増加)』だった。
(七人?)
この馬車に乗っているのは運転手と冒険者風の三人に、先程乗車した女性にレティオールとシャルルに自分の七人だ……が、運転手を入れると八人だ。
七人が誰を指しているのか分からないが、女性が乗車したと同時にメインクエストが発生したため、乗客の七人だと思いながら、自然に会話をすることにした。
「二人はラバンに行ったことがあるの?」
「うん。バビロニアに来る前に一度だけ」
「私も同じ」
何も知らないラバンの情報をレティオールとシャルルに聞く。
だが、二人とも詳しくは知らないようだ。
「いい所だぞ」
話が聞こえていたのか、馬車を操作していた運転手が会話に加わる。
「俺はリゾラック。生まれも育ちもラバン。生粋のラバン子だ‼」
先程までの丁寧な言葉使いが嘘だったのかのように、陽気に話し始めるリゾラック。
「治安の良さは、エルガレム王国の王都エルドラードよりも良いと、俺は思っている。と言っても、エルドラードの行ったことないけどな」
一人で話すリゾラックを見ていると、「会話が好きなのだろう」という印象だった。
シャルルとレティオールが、ラバンについて質問をすると嬉しそうに話を続ける。
リゼは三人とは別に、一人でいる女性に声をかける。
「寒ければ場所を変わりましょうか?」
「有難う御座います。でも大丈夫です」
「その……私はリゼと言います。同じ馬車に乗ったのも何かの縁ですし、宜しければお名前を教えて頂けますか?」
勇気を振り絞って声をかける。
以前の自分では信じられないと、自身の成長を感じていた。
「……ララァと言います」
「ララァさん。宜しくお願いします」
リゼとララァの会話が聞こえていたのか、シャルルとレティオールも自己紹介を始める。
これが本来のシャルルなのだろうか? と思うくらい、レティオールとリゾラックの会話が弾んでいる。
話好きな明るい女性だったことに驚くリゼだったが、笑顔を見せるシャルルを見て嬉しくも感じていた。
そして、そのシャルルが会話の主導権を握るのも当然の流れだった。
ララァは話しかけて欲しくない雰囲気だったので、リゼも話しかけるのを躊躇していた。
レティオールとシャルルも感じていたようだったので、敢えて話題を振ることはせずに、リゾラックと話を続けていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日は、ここで野営をするか」
リゾラックが馬車を停める。
所々に焚火の跡が残っている。
運航馬車は、ここを野営の場所にしていることが多い証拠で、それだけ安全が確保されているということになる。
リゾラックが馬に餌などを与えている間、リゼたちは火を起こして食事の準備をする。
「ララァさんも火を使いますか?」
リゼが尋ねると、ララァは返事をすることなく俯いたままだった。
(もしかして……食事の用意をしていない?)
基本的に馬車は移動の手段だけで、食事などは自分で用意しなければならない。
恰好といい、身一つで飛び出してきたようなララァの全財産が金貨一枚だったのだろうか? とリゼは思いながらも口に出さずに優しく話し続けた。
「食べる物がないなら、私の干し肉を少し分けましょうか?」
悩んでいるのかララァが考え込む。
「私たちは食料に余裕があるから、私たちのを分けよう」
冒険者風の三人が話に入って来た。
馬車の中では、話し掛けて欲しくない雰囲気だったのと、馬車の後方を警戒していたのか、視線が合うことのなかったので、初めて声を聞いた。
「自己紹介がまだだったな――」
剣士の”マトラ”に中級魔術師の”アヤシャ”、治癒師の”サイミョウ”の男性三人組だった。
熟練した冒険者なのか、どこか落ち着いていた。
馬車の中では、後方からの魔物に警戒していたので、会話が出来ずにいたことを謝罪される。
リゼもレティオールとシャルルと共に自己紹介をすると、リゼとレティオールのレアな職業を聞いた三人は驚いていた。
特にリゼの忍は聞いたことが無いのか、いろいろと聞かれる。
二人の様子を見て、シャルルは複雑な表情を浮かべる。
自分だけ特殊な職業では無いことに劣等感を感じていた。
「あ、あの……」
ララァは話すタイミングを待っていたのか、控えめな自己紹介をした。
話し合いの結果、マトラたちの好意に甘える形で、ララァは食事を分けてもらうことで決着すると、ララァは申し訳なさそうにして感謝する。
乗車した七人は、食事をしながら今夜の見張りについて話し合うことになる。
リゾラックは馬車の手入れをした後、用を足すと言って少し離れていた。
とりあえず、冒険者六人を二人一組として、交代で見張ることで合意した。
バランスを考えて、剣士のマトラと治癒師のシャルル、忍のリゼと治癒師のサイミョウ、守護戦士のレティオールと上級魔術師のアヤシャの組に決まる。
用を終えたリゾラックが戻ってきたので、今夜の見張りについて報告すると、「宜しく頼む」と笑顔で応えた。
(あれ?)
食事中のララァが、自分やマトラたちを目で追っているように思えた。
会話が弾むわけでなく、無言の時間が続いたからだろう。
殆どの会話はリゾラックが中心だった……というよりリゾラックが一人で話していた。
多くのことを語ろうとしないマトラたちだったが、素性を探られたくない冒険者も一定数で存在する。
冒険者としても普通のことだが、今まで会った冒険者の中でも無口なパーティーという印象だった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十四』
『魔力:三十三』
『力:二十八』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十四』
『運:五十八』
『万能能力値:十四』
■メインクエスト
・七人でラパンに辿り着くこと。期限:ラバン到着まで
・報酬:魅力(一増加)、力(二増加)
■サブクエスト
・殺人(一人)。期限:無
・報酬:万能能力値(十増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
私のスキルが、クエストってどういうこと? 地蔵 @jizou_0204
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